南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

獣医師とウチナーグチ

昨日、沖縄の方言のことを書いたら
結構反響がありました。

ちょっと続けてみます。

数年前、
私より三十歳ほども歳の離れた獣医の先生と
お仕事をさせていただいた期間があります。

それも一人ではなく、
何人もの大先輩とずっと一緒でした。
ほとんどが沖縄生まれの方です。

仕事の合間合間、沖縄の文化・風習・言葉、
様々な事を教えていただいたものです。

このとき私が、
「獣医師、というのを
ウチナーグチ(沖縄の言葉)でどう言いますか」
と尋ねたことがあります。

「ウヮーヌフグイトゥヤー」

一人の先生が冗談めかしてそう言い、
周りの人が笑いました。
「確かにそうだ」という人もあり、
「昔と今は違うよ」という人もあり。
「今でも似たようなものさ」と笑う人もいて、
何のことやら私も戸惑ったものです。

ウヮーヌフグイトゥヤー。

ウヮー、ヌ、フグイ、トゥヤー。

「ウヮー」は「豚」
「ヌ」は格助詞「の」
「フグイ」は「ふぐり(睾丸)」
「トゥヤー」は「取る人」

つまり、
「豚の睾丸を取る人」
という意味になります。

豚が身近な家畜であり、
貴重な食料であった沖縄では、
去勢の技術は貴重だった事でしょう。

実際、去勢されずに育った豚を肉にすると
アンモニア臭というかケモノ臭というか、
不快な独特の匂いがするものです。

もちろん、
昔は獣医師という国家資格がありませんから、
「ウヮーヌフグイトゥヤー」=「獣医師」
ではなかったかも知れません。

しかし、
「今でも似たようなものさ」
と笑った先輩は普段とても謙虚な方でした。

獣医師は必ずしも、
煌びやかな仕事ではありません。
日の当たらない所で、
脚光も賞賛も浴びる事なく黙々と、
人々の生活のために働く事もあります。

例えば日頃、皆さんが口にする食肉は、
一頭一頭、獣医師が検査したものです。
その内臓の一つ一つまで。

病畜の肉を流通させないように。
感染症が人に危険を及ぼさないように。
日本中で獣医師がまさに盾となり、
人々の食の安全を守っています。

ウヮーヌフグイトゥヤー。

動物の健康を守り、
動物から人への感染症を防ぐ。
獣医師に与えられた使命と、
本質的な存在意義を内包する言葉。

私は誇りを持って言います。
自分は、ウヮーヌフグイトゥヤーであると。