南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

往診獣医の事件簿 10 〜患部はどこだ〜

それは三年前のこと。
降り続いた雨のあがったある日、大型犬の飼い主さんから一本の電話。

「ウジが落ちてるんです、あっちこっちに」

あまり想像したくない光景。
詳しくお話を伺う必要がありそうです。

「あっちこっちというと、地面にですか」
「そうなんです。うちの犬の歩くところ歩くところにウジが」
「それは気持ち悪い‥‥」
「もう、怖くて」
「それで、ウジはどこからですか?」
「わからないんですよ!傷がないんです!」

何じゃそりゃ?
首をひねりながら現場に向かいます。
湿度の高い日で、低い山にも霧がかかっています。いつまたひと雨来るかも知れません。
降り始める前に往診を終えたいところですが‥‥。
ともかく、こんな相談は初めてです。


現場に着きました。
今回、ウジをまいて歩く手品師と化したのは、レオという名の大型犬。
雨の日に外でたたずむのを好む、ちょっと変わった子です。

「見たところ、いつものレオですな」
「元気はあるんですよ。でも、ほらこんな」

指で示された地面には、のそのそと動くイキの良いウジたち。

「‥‥むむ?」
使い捨ての手袋をはめ、注意深く全身を触ります。
確かにレオは、毛の深い犬です。
被毛の下に隠れて傷があるかも知れません。
しかし不思議なことに、いくら探しても「患部」がありません。
そんなはずは‥‥。傷もなしにウジが?
ところがそうするうちにも、レオの体からはウジが落下し続けています。

おかしい‥‥。
しかしやはり、傷らしいものがない‥‥。

このときふと、見逃した場所があることに気づきます。
確かに全身は触ったが、あの上は通り越した。


首輪‥‥。


指先で首輪をつまんでみます。
ジュワッ。茶色い水がしみ出しました。
水を含んで膨張しているのです。
それは使い込まれた革製の首輪でした。

「レオは、雨が好きでしたね」
「そうです、小屋に入りたがらないの。ビショビショに濡れて、立っているの」

いま、レオの毛は乾いています。
しかし首輪は水を含んで濡れている。
恐らく、数日来の雨水を保持しているのでしょう。
首輪の下に指を差し入れます。
生あたたかく、毛がたっぷりと水を含んでいます。
そして、その下の皮膚は‥‥。
風呂上がりの肌のようにブヨブヨになっています。

ここだ!

急いで首輪を外します。

あとは、想像したくない光景。
ウジをつまんで除去し、毛を刈り、患部を消毒します。
厄介者を取り除いたとはいえ、まだ痛々しいですね。

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しかし原因がわかったからにはもう心配ありません。
あとは治すだけ。
レオのウジマジックも、今日で見納めです。

12日後、再診に訪れました。
すっかり毛が生えてきています。もう大丈夫でしょう。

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・吸水性の首輪
・毛の長い犬
・雨に打たれるのが好き

この条件が重なると、ウジを招来する可能性があるようです。

梅雨に入るこの時期、思い当たる飼い主さんは注意してあげて下さい。




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