レプトスピラ症(1) ~水辺にひそむ螺旋~
2000年8月21日。
マレーシアのカリマンタン島。
当時、ここに世界中から鉄人が集結していました。
27か国から304名。いずれも体力に自信のある強者です。
彼らは4人から5人で1組となり、数日間かけてジャングルを走り、カヌーやカヤックを漕ぎ、時に峡谷を下り、あるいは洞窟を抜けてゴールを目指します。
大会名「エコチャレンジ2000」。
競技は8月21日から9月3日まで行われ、体力自慢の鉄人たちが覇を競いました。
・・・そして。
事件はその後に起こります。
レース後、参加者が次々に体の不調を訴え始めます。
発熱、頭痛、筋肉痛。結膜炎、下痢。
症状を訴えた選手のうち25人が入院。
奇妙なことに、発症時期は9月4日に集中していました。
レースは9月3日に終わっています。つまり、
「レース終了後に何らかの感染症が集団発生した」
ということになります。
ところがレースのあと、患者たちに共通の行動や感染機会は見いだされませんでした。
すると・・・。
感染症というものには潜伏期があることを考えると・・・・。
そう、彼らはレース中「どこか」で「なにか」に感染したことになります。
・症状を訴えた者たちの多くが立ち寄った場所。
・無症状だった者の多くが立ち寄らなかった場所。
それはどこか。
聞き取りを行ったところ、「セガマ川」という川を泳いで渡った人に感染者が多いことが分かってきました。
実際の数値を示しましょう。
セガマ川を泳いだ者のうち、57%が症状を訴えたのに対し
泳がなかった者のうち、症状を訴えたのは28%にすぎませんでした。
疫学的にはこの場合、リスク比は約2倍(57/28)だと判断されます。
つまり、「セガマ川を泳いだ者は泳がなかった者の2倍、感染しやすかった」
ということです。
疫学的な調査と並行して、患者の血液も検査されました。
症例の血清32検体のうち17検体で、ある病原体の抗体が陽性でした。
その病原体は、レプトスピラ。
鉄人たちを苦しめたのはレプトスピラという細菌だったのです。
そして、「川を泳いだ者」の多くが感染を受けていました。
抵抗力では最強クラスの鉄人たちをも入院に追い込む「レプトスピラ」とはいったい何なのか。
鉄人たちの災難が、獣医学とどう結びつくのか。
タイトルの螺旋(らせん)とは何を意味するのか。
次回につづきます・・・・。
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