南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

動物への感染について 新型コロナ続報④

 

この新型コロナウイルス感染症については未知の部分が多く、情報が日々更新されていきます。

 

例えば、大手の動物臨床検査会社である「アイデックスラボラトリーズ」は定期的に新型コロナ情報を更新しています。

 

 

このサイトには、現時点(2020年4月26日)で以下のような記述があります。

 

「現時点において、SARS-CoV-2が原因となったペットの呼吸器感染症の報告はありません。現在分かっていることは、COVID-19は人に固有の感染症であり、人獣共通感染症であるとは考えられていません。米国疾病対策センター(CDC)でも、ペットがSARS-CoV-2を伝播するとは考えていません。また、現在までに米国内でペットの感染例や発症例の報告はありません」

 

しかし、そのCDCは4月22日、ニューヨーク市内で飼い猫2匹が感染したと発表しました。

この2匹は臨床症状(呼吸器系)が出たため検査を受けて、感染が判明しています。

 

 

2匹はそれぞれ別の場所で飼われていた猫です。

1匹は飼い主が新型コロナウイルス陽性であり、ヒトからの感染がうかがえます。

もう1匹は飼われている家庭に新型コロナウイルス感染者がいなかったため、外で感染してきた可能性も指摘されています。

 

幸い、2匹とも症状は軽いということです。

 

「ヒトから猫への感染」という事例はこれからも出てくるものと思われます。

ただ、それが起こりやすい現象なのか、レアケースなのかはいまだ不明です。

また、猫から猫への感染についても、今回のように「ヒトから感染したかどうかよくわからないが、外に出る猫が感染している」という事例がどのように増えてくるか、猫からの感染がどの程度疑われるか、を注視する必要があります。

 

「状況が日々変わる」という意味では、先ほど触れたアイデックスラボラトリーズによる大規模な調査もそうです。

 

この会社が犬・猫・馬から得た3500検体以上を検査した結果、すべての検体がSARS-CoV-2 (COVID-19)検査陰性であった、という結果を公表しています。

 

IDEXX社のSARS-CoV-2 (新型コロナウイルス感染症) に対するリアルタイムPCR検査

 

ちなみにこれらの検体の内訳は

採材地域:米国(50州すべてを含む)および韓国
動物種:犬55%、猫41%、馬4%(呼吸器疾患および下痢のPCR検査を目的にIDEXXが受託した検体)
採材部位:呼吸器77%、糞便23%

検体採取期間:2020年2月14日~3月12日

 

「3500検体以上を検査して、陽性が0なら安心じゃないか」

 

と直感的には思うのですが、これはあくまで「呼吸器疾患・下痢の動物から得られたデータ」であり、新型コロナウイルス感染者が飼っていた動物から得られたデータ」ではない、という点を押さえておく必要があるでしょう。

 

また、検体採取の最終日であった3/12時点でのアメリカにおける新型コロナウイルス感染者は1668人、死者は40人でした。

 

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(引用:https://vdata.nikkei.com)

 

しかし現在、直近の4/25のデータでは、アメリカにおける感染者は89万人、死者は5万人です。

 

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(引用:https://vdata.nikkei.com)

 

感染者数は500倍以上、死者数は1200倍以上に増加しています。

感染者が動物と接する機会は3/12以前と現在で文字通りケタ違いだと推察されます。

この状況下で同様の検査を行った場合、前回と同じ結果になるかどうか‥‥?

それはまだわかりません。

 

ともかく、全世界の感染状況について見やすいサイトを紹介しておきます。

チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス:日本経済新聞

常に最新の情報に基づいて行動する必要があります。

 

また、動物の感染に関するニュースへのコメントの中に

「人間ですら検査待ちなのに、動物が検査優先とか」

というような意見を見ました。

 

確かに直線的な感情としてそのように考えることができるかも知れませんが、これはもっと包括的な問題です。

 

恐らく我々が真剣に考えねばならないのは、

「この感染症は動物界のどこまで進出しているのか」

ということです。

 

このブログで以前から書いているように、もし猫において拡散した場合、コロナ後の世界では猫を飼うことすら難しくなる可能性があります。

 

畜産動物に波及した場合、食肉や乳製品、あらゆる食品に影響が出る可能性があります。

 

鳥類に感染するようなことがあれば、このウイルスは渡り鳥と共に大陸間を定期的に飛翔し、国単位での終息を妨げる危険性もあります。

 

動物への感染実態を調査すること、これは単に獣医療の観点からのみで論じられることではありません。

 

ヒトは物理的にも精神的にも、動物の恩恵を受けてきました。

彼らを守る責務があるはずです。

正確な情報に基づいて、理性的な行動を取りましょう。

もっとも進化した脳を持つ動物である人間には、それができるはずですから‥。

 

 

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