南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

ヒトから虎へ? 新型コロナ続報②

 

前回、「ヒトから猫へ」そして「猫から猫へ」新型コロナウイルスが感染したというニュース記事を補足しました。

 

 

このとき、より慎重な検討が必要だと書きました。

 

・例数が少ないこと

・多角的に検証された臨床例ではないこと

 

そのような理由からでした。

ヒトから猫への感染を確認できたのは1例だけで、それを検証したハルビン獣医学研究所も人為的に感染を成立させたに過ぎなかったからです。

 

しかし、ここにきて大きなニュースが飛び込んできました。

 

ニューヨークの動物園で、新型コロナウイルスが飼育員からトラに感染したとCNNが報じています。

 

 

感染が確認されたのはマレートラ。

3月27日に体調を崩し、4月4日の検査で陽性が確認されました。

別のトラ2頭とライオン3頭にも症状が出ているものの検査は未実施です。

 

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(マレートラ Wikipedia)

 

 

これは重要な問題です。

ポイントは二つ。

 

・飼育員が無症状であったこと

・感染したのがトラだったこと

 

先に、ハルビン獣医学研究所はウイルスを猫の鼻腔内に接種することで感染を確認していました。

つまり「高濃度のウイルスが鼻腔内に直接侵入する」という人為的な経路によって感染が成立したわけです。

 

しかし今回、新型コロナウイルスに感染していた飼育員は無症状だったと報じられています。

 

さらに注目すべきは、相手がトラだったことです。

犬や猫で起こるような、ヒトとの濃厚接触(抱き上げたり、顔を舐められたり)があったとは考えにくいのです。

つまり「無症状のヒトから高濃度のウイルスがトラの鼻腔内に侵入する」状況下にはなかったはずです。

 

また、複数のトラやライオンにも症状が出ていることが併せて報じられています。

つまり人為的な感染経路によってではなく、

・無症状病原体保有者から

・ある程度距離を保った状況下ですら

「ネコ科の動物は新型コロナウイルスの感染を受けるのではないか」という可能性が出てきました。

 

このことが、人と同じ屋根の下で暮らす飼い猫にとってどれほど脅威であるか。

 

また、ハルビンでの事例から猫と猫の間でも感染が起こることを想定すると、飼い猫が屋外に出て他の猫にウイルスを拡散させることも考えられます。

 

もしヒトから猫、猫から猫への感染が世界中で同時進行的に起これば。

その拡散を阻止できるでしょうか。

阻止できなかった場合、恐らく「コロナ以後」の世界は今までと全く違ったものになるでしょう。

その世界で猫は「21世紀初頭、人類にパンデミックを引き起こしたウイルスを保有する動物」としてどのような扱いを受けるのか。

 

そうならないために。

 

確定的でない情報の中にあって、予防的措置として

 

・猫に感染させないように

・猫を外に出さないように

 

心がける必要があると考えます。

それはあなたの猫を守るためでもあり、猫という種そのものを守るためでもあります。

 

いや、それはネコ科の動物、そこから伝播する可能性のあるあらゆる脊椎動物、ひいては生態系そのものを守ることにもつながります。

 

いま、人類は「人類が人類という種の中で食い止めるべき」動物由来感染症と戦っているのかも知れません。

希望を持って、いま出来ることをしましょう。

 

Don't ever make decisions based on fear. Make decisions based on hope and possibility.

(恐れに基づいて決めてはいけません。決断は、希望と可能性に基づいてするものです)

ミシェル・オバマのスピーチから

 

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