君は「肝蛭」を知っているか
「肝蛭」。
特定の学術領域の人以外は、まず読めません。
正解は、「かんてつ」。
「蛭」の字は訓読みでは「ヒル」。
肝蛭は
「肝臓や胆管に住むヒルのような寄生虫」
のことを言います。
特に日本産肝蛭は有蹄類の肝臓実質・胆管に
寄生しており、レバーを生で食べると
感染する危険性があります。
「肝蛭症」
と言って、動物由来感染症のひとつです。
ところで何で急にこんな話を???
私も書く予定はなかったのですが、
さすがに今日、ちょっと気になりました。
「鹿の生レバー丼」が
かなり検索されています。
2019年3月9日、TV番組内において
木村拓哉さんが「人生最高の一品」として
「鹿の生レバー丼」
を挙げたということ。
番組HP内では
・北海道根室市でロケ中、仕留めてきたばかりのシカが吊るされていた
・シカ猟師がナイフで素早く捌き、レバーを削いで『これ、今しか食べられないから!』と木村さんの目の前へ
・さらに『丼ヤバいよ!』と言って、レバーを熱々の白いご飯にのせて、ニンニクみりん醤油のタレをかけた丼を用意してくれた
また、
・現在、鹿肉は「75℃で1分以上の加熱調理」が必要とされ、生食はすべきではないと厚生労働省から通達がある
・当時、規制はなく、木村さんは専門業者が適切に処理を行い、安全性を確認した上で食べた
という注釈も加えられていますが‥‥。
やはりこれは、リスクが高すぎます。
根室と地理的に近い、釧路地方における
エゾシカの肝蛭寄生率は
2000年で50%
2007年で56% です。
(2007.エゾシカの疾病状況調査- エゾシカの衛生管理技術の構築を目指して.平成 19 年度北海道家畜保健衛生発表演題)
また奈良公園の鹿(ニホンジカ)について言えば、
肝蛭の寄生率は実に87.5%です。
(2011.奈良公園におけるニホンジカ Cervus nippon の肝蛭症 および消化管内寄生虫相.奈良教育大学自然環境研究センター紀要 12: 1-8.)
鹿のレバーを生で食べる、
というのは「肝蛭症」の感染リスクだけを考えても
危険な行為だと言えます。
番組内では前述のように加熱処理の必要性に
ついても言及されていますが、
情報は伝達過程でしばしば省略され、断片化されます。
そもそも、生レバーに関しては
「国が規制したから食べられなくなった」
のではなく、
「食べられないほど危険だから国が規制した」
のであって、
国が規制しようがしまいが、
危険なことに変わりはないのです。
色々とご意見はあろうかと思いますが
人命第一ですので、
一獣医師として注意喚起させていただきました。
牛・豚のレバーも、鹿はじめ野生動物のレバーも、
生で食べてはいけません!