ウジを招く条件とは‥‥
今日の内容にはウジが出てきます。
補正をかけて白黒画像にしてありますが、患部の写真もあります。
あまり気持ちの良い写真ではありませんが、ウジの被害に遭う動物が出ないように、注意喚起の意味で書きました。
とは言え、幼虫系が怖い方はご遠慮下さい。
‥‥では、よろしいでしょうか。
‥‥ちなみに、ウジはハエの幼虫です。
たまにご存知ない方がいらっしゃいます。
‥‥では、始めましょう。
というわけで、患部の写真です。
裏もものあたりに穴があいています。
これはウジがあけたものです。
そのウジは画面中央から右下にかけて多数。
患部の穴にもまだ1匹潜り込んでいるのが見えますし、その奥にはまだたくさんいます。
なぜ、この状態になるまで気づかないのでしょうか。
それには、いくつか条件があります。
①毛が長い
毛が長ければ、皮下で起こっていることがわかりにくくなります。ウジの穴があるのかないのか、あっても場所がどこなのか、はっきりしません。
また、毛が長いことで保温性も高まり、犬の体温でハエの卵が孵化しやすい環境が出来上がります。
②毛玉がある
毛玉をほぐすと中からサナギが見つかることがあります。つまり毛玉はウジの揺りかごになるわけです。
また、毛玉は保水力が高く、スポンジのように水を貯めます。保水した毛玉はなかなか乾きません。するとその下の皮膚がふやけます。ブヨブヨになった皮膚はウジの侵入に好都合です。
③被毛が濡れっぱなし
たとえ短毛で毛玉がなくても、動物が雨好きだったり、飼い主さんが無警戒だったりすると、被毛の濡れた状態が継続します。するとハーネスの下・首輪の下など死角になった所は濡れたままとなり、湿潤環境を好むウジのターゲットになります。
【首輪の下にウジがいた症例:毛を刈ると患部の状態がよくわかる】
④飼い主さんがご高齢
つまり、ウジを視認しづらくなっているということです。指摘されてはじめて、ウジがたくさんいることに気づかれるパターンがあります。
確かにホワイト系の床の上にウジを置くと、気付きにくくなります。
また、ご高齢の飼い主さんが犬を介護している場合、寝返りをうたせる事が難しくなります。すると片側は常に死角となり、床との間の湿度も高く床ずれも発生しやすいのでウジがわきやすくなります。
⑤飼育環境にハエが多い
食事が出しっ放しだと、当然ハエがやって来ます。また、糞尿が周りにあったり、小さな傷口や外耳炎の耳だれにもハエは反応して飛来します。ハエの活動が盛んな夏場は特に注意する必要があります。
‥‥ということで注意点を5つ列挙しました。
飼い主の皆さん、くれぐれもご注意下さい。
さて、次は「どうすればいいのか」という話をせねばなりませんね。
次回、対策についてまとめます。
さて、ハエの話をしようか‥‥。
今日は「ハエ」のお話をします。
このところ、ハエにまつわる往診が立て続けにありました。ハエの生態について知識がない飼い主さんもいるようですので、ここらでまとめておきましょう。
ちよっと気持ち悪い話かも知れませんが、大事なことです。
下の写真は、実際に現場で撮ったものです。
傷口にハエがとまっています。
ハエ周辺の背景を白黒に画像加工してありますが、苦手な方は上手にすっ飛ばして下さい。
【傷口にたかるハエ】
例えば若い世代を中心に
ハエの幼虫を何と呼ぶか、それがどのような形をしているのか
を知らない人がいらっしゃいます。
それだけ世の中の衛生状態が良くなったと言えばそうなのですが、「ウジ」を知らない飼い主さんに出会って驚くことがあります。
以前あった依頼では、飼い主さんから
「変な虫がお尻の穴から出てくるんです」
「回虫かな?長いですか?」
「短いです、どんどん出てきます!早く来てぇぇ!モソモソ動いてるうぅぅぅ‥‥!」
行ってみるとウジでした。
調べてみるとお尻の近くに化膿した箇所があって、そこにウジがわいていました。
そのウジが今度は肛門から犬の体内に侵入。
肛門から再び外に出てきたウジを飼い主さんが目撃してパニックになり、電話して来たわけです。
「ウジですよ、これは」
「何ですかウジって‥‥‥虫?」
「ハエの幼虫ですよ」
「げーーーーーーっ!!!!」
ウジは、ハエの幼虫です。
ハエが患部の周辺に卵を産み、それが孵化したものです。
ウジは患部を食い進みながら成長します。
やがてサナギを経てハエになります。
このときウジは、動物が生きていようがお構いなしに、表皮、真皮、皮下組織を消化吸収しながら奥深くへ侵入。外に出た個体は肛門からも入りこんで消化管粘膜を傷害します。
放置すると命に関わることは言うまでもありません。
悲しい話ですが開業以来、何例もウジにやられた動物を見てきました。
特に夏場はハエ・ウジにまつわる往診が多くなります。
そのうちの何割かは、驚いたことに
「ウジだらけなのに飼い主さんが気付いていない」
というパターンでした。
ですから、これは誰にとっても他人事ではありません。
次回
「なぜウジにやられてしまうのか」
「なぜ飼い主さんは気付けないのか」
について、実際の症例を挙げて解説します。
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ジンブンスーブ???
移り住んで10年ほどたつと、沖縄の方言にもだいぶ慣れてくるものです。
しかし、今でもたまに面食らうことがあります。
狂犬病の予防注射を打ちに行ったときのこと‥‥。
「こんにちは」
「あっ!ちょっと待ってて、うちの犬はよその人見ると興奮するから」
「リードを持ってていただければ注射はできますよ」
「いま庭に放してるんですよ。捕まえますから、先生そこで隠れてて下さい」
しばらく門の脇で息をひそめます。
‥‥。
‥‥。
もうそろそろ捕まえたかな?
チラッと庭の方を伺います。
ガサゴソ。
ガサゴソ。
そして飼い主さんの荒い呼吸。
なかなか捕まらないようです。
もうしばらく待ちます。
‥‥。
‥‥。
いいかな?
しかし庭を覗くと、まだ捕まらないようです。
ちょっと状況を伺ってみましょう。
「捕まりませんか」
「ジンブンスーブしてる」
「えっ?」
「うちの子、ジンブンスーブするわけさ」
「なに?」
飼い主さんが庭の端っこに追い詰めると、犬は人の股をくぐって反対側へ。そこでまたシッポを振っています。
追いかけっこを楽しんでいるようです。
「ジンブン‥‥何ですか」
「ジンブンスーブよ。ハアハア‥‥」
「???」
ジンブン、というのは、沖縄では「知恵」のことです。メジャーな言葉なので、私にもわかります。
では、スーブは。
スーブ‥‥。
‥‥そうだ、沖縄で「スイ」と言えば「首里(シュリ)」のこと。
してみると、
「スーブ」は、大和言葉では「シューブ」か。
ジンブンの、シューブ。
まだわからんな‥‥。
飼い主さんと犬が庭をぐるぐる回っている間、こちらも頭の中で考えを巡らせます。
シューブ。
‥‥シュー‥‥ブ。
そう言えば、沖縄言葉で「ウ」チナーと言えば大和言葉で「オ」キナワのこと。
ウとオが入れ替わるとすると、シュ(SYU)は大和言葉ではショ(SYO)か。
シューブではなく、ショーブ。
ショーブ‥‥。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥勝負!
知恵の勝負、つまり、「知恵くらべ」だ!
そうこうするうち、庭の方ではジンブンスーブが終わったようです。
飼い主さんと犬の息が整うのを待ちながら、カルテの隅にこっそり書いておきます。
「ジンブンスーブ=知恵くらべ」
こうやって私にも日々、ジンブンが蓄積されていくわけです。
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心臓に、毛が生える?
前回「心臓に骨がある」という話を書きました。
ついでに補足しておくと、本当に
「心臓に毛が生える」
ことがあります。
「あいつは、心臓に毛が生えたようなやつだ」という言い回しがありますが、実際に心臓に毛が生えるわけです。
これを病理学的には「絨毛心(じゅうもうしん)」と言います。
ただし、いわゆる毛髪のような毛が生えるわけではなく、心臓の外側の組織が毛羽立っている、という状態です。
絨毛心は病的な経過で現れます。
心臓は心膜という膜で包まれているのですが、ここに炎症が起こると線維素(せんいそ)という物質がたくさん作られます。
線維素はまるで岩藻のように、心膜や心外膜の壁に付着していきます。
すると心臓全体に毛が生えたようにみえるわけです。
(参考:線維組織の病理画像)
この状態を病理学的には「線維素性心膜炎」とよびます。外見上は毛に覆われたように見えるため、この心臓を絨毛心と呼ぶわけです。
さらに補足をすると、心臓がトラ柄になる
「虎紋心(こもんしん)」
と呼ばれるものもあります。
これは心臓が「脂肪変性」という病的変化を起こした場合、まれに見られるものです。
心筋が、びまん性(範囲を特定できないほど広がっている)に脂肪化した場合、心臓が全体的に黄色調の縞模様となることがあり、これが虎の紋様に見えることから、この状態の心臓を「虎紋心」と呼ぶわけです。
絨毛心にせよ虎紋心にせよ、「心臓の異常」であることに変わりありません。
ですから「心臓に毛が生えたような」生き物は、たくましいどころか病理学的にはケアが必要な、弱った状態であると言えます。
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心臓の、ホネ?
「心臓に骨がある」と言うと一般の方は驚くことでしょう。
しかし獣医領域では、珍しいことではありません。
ある種の動物では心臓に骨があります。
これを「心骨(しんこつ)」と言います。
心骨は意外に皆さんのなじみ深い動物で見られるのですが‥‥。
‥‥ということで、今日はちょっと獣医師国家試験っぽくいってみますか。
問題 「心骨を有する動物を以下の中から選べ」
1. ウサギ
2. ネコ
3. ウシ
4. サル
5. ラット
正解は‥‥‥
3. ウシ
です。
牛では大動脈の線維輪という場所にくっつく形で二個の「心骨」が存在します。
私もこれは実際に経験したことですが、牛の心臓の内部の異常を(牛の死後に)検査すると非常によくわかります。
ちなみに心臓の内部まで調べる理由の一つには、心臓の内部にイボのような菌の塊が形成されることがあるからです。
これを検査するためには心臓を切らねばなりません。しかし、どこでも適当に切ればいいというものではありません。
刃物を入れる場所、角度、深さに気をつけながら、なるべく心臓の原型をとどめるように切り開かねばなりません。
しかし、まだ不慣れな獣医さんは(私も昔、そうでしたが)、カチーンと刃物が当たって動かなくなる箇所があります。
それはだいたい半月弁という場所の辺りなのですが、心骨はそこに位置します。
熟練したベテランだと上手にそこをよけて、心室や心房や各弁が見えるように、かつ最も原型をとどめた形で手早く切り開きます。
ともかく、牛の心臓には骨があります。
ついでに言えば、豚や馬の心臓には軟骨が見られることがあります。これは「心軟骨(しんなんこつ)」と言います。
場所は基本的に牛の心骨と同じですが、こちらは軟骨。ただし、老齢になってくると骨化して心骨と同じようになります。
よくある言い回しで
「大した心臓の持ち主だ」
「なかなか骨のあるやつだ」
というのがありますが、これを組み合わせて
「あいつは心臓に骨のあるやつだ」
と最大級の賛辞を送った場合、要するに
「あいつは牛だ」
と言ったことになります。
注意しましょう。