ジンブンスーブ???
移り住んで10年ほどたつと、沖縄の方言にもだいぶ慣れてくるものです。
しかし、今でもたまに面食らうことがあります。
狂犬病の予防注射を打ちに行ったときのこと‥‥。
「こんにちは」
「あっ!ちょっと待ってて、うちの犬はよその人見ると興奮するから」
「リードを持ってていただければ注射はできますよ」
「いま庭に放してるんですよ。捕まえますから、先生そこで隠れてて下さい」
しばらく門の脇で息をひそめます。
‥‥。
‥‥。
もうそろそろ捕まえたかな?
チラッと庭の方を伺います。
ガサゴソ。
ガサゴソ。
そして飼い主さんの荒い呼吸。
なかなか捕まらないようです。
もうしばらく待ちます。
‥‥。
‥‥。
いいかな?
しかし庭を覗くと、まだ捕まらないようです。
ちょっと状況を伺ってみましょう。
「捕まりませんか」
「ジンブンスーブしてる」
「えっ?」
「うちの子、ジンブンスーブするわけさ」
「なに?」
飼い主さんが庭の端っこに追い詰めると、犬は人の股をくぐって反対側へ。そこでまたシッポを振っています。
追いかけっこを楽しんでいるようです。
「ジンブン‥‥何ですか」
「ジンブンスーブよ。ハアハア‥‥」
「???」
ジンブン、というのは、沖縄では「知恵」のことです。メジャーな言葉なので、私にもわかります。
では、スーブは。
スーブ‥‥。
‥‥そうだ、沖縄で「スイ」と言えば「首里(シュリ)」のこと。
してみると、
「スーブ」は、大和言葉では「シューブ」か。
ジンブンの、シューブ。
まだわからんな‥‥。
飼い主さんと犬が庭をぐるぐる回っている間、こちらも頭の中で考えを巡らせます。
シューブ。
‥‥シュー‥‥ブ。
そう言えば、沖縄言葉で「ウ」チナーと言えば大和言葉で「オ」キナワのこと。
ウとオが入れ替わるとすると、シュ(SYU)は大和言葉ではショ(SYO)か。
シューブではなく、ショーブ。
ショーブ‥‥。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥勝負!
知恵の勝負、つまり、「知恵くらべ」だ!
そうこうするうち、庭の方ではジンブンスーブが終わったようです。
飼い主さんと犬の息が整うのを待ちながら、カルテの隅にこっそり書いておきます。
「ジンブンスーブ=知恵くらべ」
こうやって私にも日々、ジンブンが蓄積されていくわけです。
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