南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

鎧、能面、そしてヘビ

昨日の鎧兜のお話をもう少し続けてみます。

引き続き、
沢瀉縅大鎧(おもだかおどしおおよろい)。
今日は胸部にご注目下さい。
鎖骨周辺を守るパーツが左右非対称です。

向かって右が鳩尾の板(きゅうびのいた)、
向かって左が栴檀の板(せんだんのいた)。

左側の「栴檀の板」の方が、
より可動域が広くなっています。

つまり
「ここをガッチリ固定するとまずい」
というわけです。

その理由は、
弓を引く動作の妨げになるからです。
弓はたいてい右手で引きますから、
矢をつがえる時に右腕が体の前を通ります。
このとき、鎖骨周辺が固定されていては
スムーズな動作が取れません。

必然的に、この部分を守るパーツには
強度と共に可動性が要求される事になります。

この
「左右非対称性」
というのは日本文化を象徴する形式の一つで、
例えば能面は微妙に左右非対称であるがゆえに
面の角度の調節で無限の表情を演出できます。

さてこの左右非対称性、
生物界においても見られることがあります。

沖縄県石垣島西表島に生息する、
イワサキセダカヘビの歯には
解剖学的にとても面白い特徴があります。

下顎の歯の数が左右非対称なのです。
具体的には、右が平均25本、左が平均18本。
つまり、

「右側で咬みついた物は離しにくい」
というわけです。

彼らは基本的にカタツムリしか食べません。
しかし、殻を割って食べるのではありません。

まず上顎を外側から殻に固定します。
そして下顎を殻の入り口に差し入れ、
下顎の歯で中身を引っ掛け引きずり出します。

イワサキセダカヘビの分布域には、
「右巻きのカタツムリ」
が多いことが知られています。

このとき、その中身を食べようとすれば、
当然右回りにアプローチするはずです。

つまりこのヘビで右側の歯が多い理由は、
右回りに侵入して捕食するにあたり、
「より効果的に中身にアプローチするため」
だと考えられます。

「そこに合理性と機能性があれば
左右非対称でもいいじゃないか」

創造されたものと自然のものが、
同じ結論に収斂していくのは興味深い事です。