南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

豚コレラを「斬る」

昨日、
「豚コレラを読む」
という話をしました。

今日は、斬ってみます。
と言っても、
現代日本を斬る」とか、
格差社会を斬る」などの
深層に迫る、という意味ではありません。
ただ単純に、斬ってみます。

「豚コレラ」ですから、
「豚」と「コレラ」に分けます。

まず、「豚」。
この感染症はもともとイノシシの病気ですが、
密集飼育されている豚に感染すると
被害が拡大する傾向があります。
だから「豚」コレラと呼ばれる、
ここは良いでしょう。

問題は、「コレラ」の方です。
これは厄介です。なぜかと言うと、
「豚コレラの病原体はコレラ菌ではない」
からです。

コレラ菌」は正式名称を
Vibrio cholerae と言って、
ビブリオという細菌の一種です。
ですから「ヒトにおけるコレラ」は、
「細菌感染症です。

ところが、
コレラの病原体は
「豚コレラウイルス」です。
コレラ菌ではありません。
それどころか、細菌ですらありません。

まぎれもなく、豚コレラ
「ウイルス感染症
なのです。

ですから、豚コレラについて調べるにあたり
コレラ菌」の研究者を訪ねたら、
「ウイルス学者のとこに行きなさい!」
と怒られるでしょう。

ともかく豚コレラウイルスは
人に被害を及ぼさないので、
「豚コレラコレラ菌?怖い」
とパニックになる必要はありません。


獣医学領域では、他にも似たような
まぎらわしいネーミングがあり、
よく間違えられたのが「家禽ペスト」です。

ペストは細菌感染症です。
原因菌は Yersinia pestis。
通称「ペスト菌」と呼ばれる、
非常に感染力の強い細菌です。
14世紀、欧州を中心に猛威を振るいました。
全欧州人口の6割が死亡したとも伝わります。

しかし。
「家禽ペスト」
の病原体はペスト菌ではなく、
インフルエンザウイルスでした。
こちらは幸いなことに2003年、
家畜伝染病予防法改正に伴い、
「高病原性鳥インフルエンザ
に改称されています。

もしかすると「豚コレラ」も、
いずれ名前が変わるかも知れませんね。

一番良いことは名前うんぬんの前に、
病気そのものが無くなることですが‥‥。