採血の腕前
私には助手がいません。
よく驚かれるのですが、
現場で採血をするときは基本的にひとりです。
もちろん、
たいていは飼い主さんが協力してくれますので
厳密にはひとりではありませんが‥。
さて、この業界には
「保定八割」
という言葉があります。
保定とは、
「動物が暴れないように押さえる」
ということです。
柔道の達人が寝技を決めるときのように
熟練した保定者が動物を押さえると、
動物は暴れることなく、血管は明瞭になって、
非常に採血しやすいのです。
この様な状況だと、
「獣医師の腕前は二割を占める程度だ」
つまり採血がうまくいくかどうかの八割は
保定者の技量につきるという、
これが「保定八割」です。
さて、
では保定者自体が存在しないときはどうするのか。
鉗子とゴムがそれぞれ一本。
ほぼ、これで対応します。
ゴムと鉗子で駆血し、
あとはなだめたり、注意をそらしたり。
大型犬が相手の時は、
まず取っ組み合いのプロレスをして、相手がへばって
「どうにでもして」
となってから血をとることもあります。
口輪をしたり、洗濯ネットに入ってもらったりすることもありますが、
基本的には特に大騒ぎも無くひとりで採血します。
「血をとりますから、腕を出してください」
ハーイ、と腕を出してくれる動物がいたら、
それはそれで楽だろうな、とは思いますが。
しかし、
「この子はどうやったら採血させてくれるか」
考えることは、
その子を深く観察する事につながります。
とは言え、苦労することもあります。
咬まれたり、引っ掻かれたりすることも
たまにあります。
採血1つとってみても、
この世界は本当に奥が深い、そう思います。