南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

往診獣医の事件簿 8 〜「昭和」への往診〜

那覇市の一角。
近くを国道が走り、ビルの向こうに都市モノレールの高架が見える市街地。

ところが角を曲がるとそこに、
昭和が置いてけぼりをくったような一軒の家。

ボランティアさんの依頼を受けての到着です。
保護犬の診察のために来ました。
飼い主さんはご高齢の男性で、事情があって犬を手放さねばなりません。

崩れそうな借家。
袋一杯の空き缶。
とっちらかった家の周りには、野良猫がたむろしています。

犬はミニチュアピンシャー系のメス、8歳。
性格は温厚で、おとなしく採血もさせてくれます。

飼い主さんはこの犬をずっと外飼いしていました。
フィラリア予防の知識もお持ちでないし、
避妊手術も受けさせていません。

屋根代わりにビニールシートがかぶせてあるような家の庭で、この犬はずっと飼い主さんと暮らしてきました。

さて、セオリー通りならこう言うでしょう。

「終生飼育ですよ!最後まで責任を!」
フィラリア予防もさせないなんて!」

しかし現場を訪れると、その言葉は喉の所で止まるのです。

裕福な暮らしでないことは、一目瞭然です。
しかし犬は痩せていません。
喜んで抱かれますし、
説得に応じて採血もさせます。
人との信頼関係‥‥、特に飼い主さんとの信頼関係がないとこうはいきません。

恐らくこのおじいさんは、このおじいさんなりに、
この子を大切にしてきたはずです。
お皿にはドッグフードが入っていました。
「当たり前でしょう!」
と皆さん思うでしょうか。

くさりかけの残飯、それだって気が向いたときだけ、そんな飼い方を私もボランティアさんも未だに見るのです。

家の脇に、ジュースの空き缶のつまった袋がいくつか。
さりげなく、中身を見ます。
この年代の方が好むような飲み物のラインナップではありません。

このおじいさんは、空き缶を集めて回ったお金をドッグフード代にあてたでしょう。
人ひとり、犬いっぴき、
ビルに押しつぶされそうな都会の片隅で、
身を寄せ合って暮らしてきたはずです。

避妊手術やフィラリア予防の未実施は、
飼い主さんの年齢によってはしばしば、
知識外の事です。
無知を責めることは容易ですが、
今光を当てるべきは過去ではなく、未来です。

ともかく、
立ち退きの日が来るまでにボランティアさんと協力し、行き先を探さねばなりません。

とりあえず、フィラリアの検査をします。
沖縄で8年も外で飼っていれば陽性に決まって‥‥。
決まって‥‥。
ありゃ。
陰性でした。
Tの所に線が出ていないので、
フィラリア抗原検査は陰性です。

後で顕微鏡ものぞきましたが、ミクロフィラリアはいませんでした。
もちろん、いない方がいいのです。

こんな奇跡的なこともあるのか、
と嬉しい誤算にボランティアさんと一緒に喜びました。

そしてふと、さっきうろついていた野良猫の耳が
「さくらカット」
されていたことに気づきます。
不妊手術されている証拠です。

野良猫を減らすために、しかし今生きている命を全うさせるために、誰かが確実に手を差し伸べた証拠です。

もしかして、この犬にも。
毎月誰かがこっそり、予防薬を飲ませていたのか‥‥。
帰路、運転しながらふとそんなことを思いました。

乱立していくビルと、崩れそうな借家。
そこに暮らす人も動物もまた、
否応なく押し寄せる時代の混沌の中にいます。




缶ジュースバラエティギフトセットD オリジナル企画品【~♪送料無料♪~九州・北海道・離島(沖縄など)・代引き手数料・クール便は別途費用が掛かります♪】 ★在庫が0でもお取り寄せできます。