南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

「オカルト感染」とは? ( 1 )

「先生、うちのワンちゃんはどうでしょう?」
「ううむ、オカルト感染かも知れんな‥」
「ええっ!そう言えばきのう、月刊ムーをくわえていたわ!」

‥‥という意味ではありません。

オカルト感染は、いわゆる犬のフィラリア感染症で使われる用語です。

普通、フィラリアの親虫からは
「ミクロフィラリア
と呼ばれるフィラリアの赤ちゃんが生まれます。

犬の血液を検査してミクロフィラリアがいれば、とうぜん親虫もいることになります。

親虫は心臓や肺動脈に寄生しています。
血流が阻害されますから、何らかの臨床症状が出てくるわけです。
また、フィラリアに寄生されたことによる免疫系の異常が見られる場合もあります。

私もよく、往診先で血液を検査します。
犬から採血し、血液をスライドグラスに直接塗って顕微鏡で見ます。
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雑音を聴いて、「こりゃ怪しいな」
と思ったときは、だいたいミクロフィラリアがいます。
赤血球の間を縫うように、あちこちにうごめいているわけです。

ところが、
「親虫が寄生しているのに、ミクロフィラリアが検出されない」
というパターンがあります。

これを「オカルト感染」と呼びます。
この場合、本来はフィラリア陽性なのに陰性だと誤診してしまう可能性があります。

ただし超音波をあてたり、診断キットを使ったりして総合判断すればフィラリア感染の診断精度は上がります。


しかし不思議ですね。
なぜ親虫がいるのに、子供が生まれないのでしょうか。
実はこれ、よく考えれば起こりうることなのです。

例えば、親虫が片方の性別だけの場合。
フィラリアにも雌雄がありますから、オスばっかり、メスばっかりの感染だとミクロフィラリアは生まれません。

次に、親虫がまだ未成熟で、ミクロフィラリアを生む前の段階。この場合、期間をおいて再検査するとミクロフィラリアは検出されます。

そして、採血時間の問題。
ミクロフィラリアには、1日のうち
「血中に出てきやすい時間帯」
があります。
その時間を外して採血してしまうと、あれ?いないかも?ということになります。
この採血時間の問題、非常に興味深い現象ですので、明日また続きを書きます。