「オカルト感染」とは? (2)
きのうの「オカルト感染」とは?( 1 ) の続きです。
「心臓に親虫がいるのに、血液中には子供の虫(ミクロフィラリア)が見つからない」
これを「オカルト感染」と呼ぶのでしたね。
この現象がおこる理由の一つに、
「フィラリアの定期出現性」
があります。
不思議なことに、ミクロフィラリアは夜になると末梢血に出てきます。
つまり、宿主の体表近くに移動してくるわけです。
じゃあ、昼間はどこにいるのか。
宿主体内の深いところ(中心血)に潜んでいます。
さて我々は、ここで
「フィラリアは蚊によって媒介される」
という事実を思い出す必要があります。
蚊の活動が活発化するのは夕方からです。
そして、フィラリアは蚊の吸血によって分布を広げたい生物です。
夜間、宿主の体表近くに集結していれば、蚊によって媒介されやすくなります。
フィラリアは蚊の活動時間とシンクロし、効率的に吸血されるよう進化した生物だと考えられます。
このような理由で
「昼間採血した血液からはミクロフィラリアが検出されにくい」
という現象が起きるわけです。その時間帯、彼らは宿主の中心血にいるからです。
実際、ミクロフィラリアが光を感知できることは試験管内の実験で明らかになっています。
つまり彼らは何らかの方法で「昼と夜」を感知しているようです。
そして夜になると蚊に吸われるべく、体表の血管に移動して来る。
見事な戦略と言うほかはありません。
ただ、不可解な点も残っています。
それは
「蚊の活動が最もさかんなのは夕方〜夜なのに、ミクロフィラリアの出現ピークは深夜である」
という事です。
この微妙なタイミングのずれは何を意味するのか。
1879年、Mansonらによってフィラリアの定期出現性が報告されてから実に140年。
獣医学の終着駅は、まだまだ先にあるようです。