いぬのおいしゃさん??
「この人はね、犬のお医者さんなの」
母親から説明を受けているのは4歳くらいの女の子。
じっと私の振る舞いに見入っています。
犬に点滴をしながら、私も会話に加わります。
「これは、テンテキと言ってね、ワンワンが元気になる水ですよ。ほら、この水にお薬も混ぜようね」
私は注射器に栄養剤を吸ったり、薬の瓶を往診カバンに戻したり。
女の子はその作業を食い入るように見つめています。
「飲み薬も出しておこう。一緒にお話、聞いてくれる?」
こっちの錠剤は1日2回、こっちは1日1回‥‥。
お母さんと娘さん、しっかり説明を聞いてくれます。
しかしこの女の子、薬よりも説明している私の方に興味があるようです。
こちらをじっと見つめています。
それも、何か不安そうな目で。
ああ、そうか。
心配なのだな‥‥。
「きっと良くなるよ。来週また、診にくるからね」
うなずいてくれますが、まだ何か引っかかるようです。
気になりつつも、おいとまします。
去りぎわ、背中越しに子供のささやき声。
「ねぇ、ワンワンのお医者さんはまだ来ないの?」
えっ???
思わず立ち止まります。
「何言ってるの。あの人がワンワンのお医者さんでしょ!」
お母さんの声に、女の子はつぶやきました。
「でもあの人、ニンゲンだったよ‥‥」
帰りの車中、笑いが止まりませんでした。
往診って、いいものです。