猫が悪い?
「とにかく、ノミがすごい」
というお電話でした。
訳あって、祖父母と同居する事になった大学院生からの依頼です。
状況は、依頼主の足を見ればわかります。
見ているだけで痒くなるようなノミの刺し口。
猫を飼っているのかノミを飼っているのかわかりません。
「自分も、決して猫が嫌いではないのですが」
このままではここに住めない、とのことです。
ということで、さっそく仕事です。
食べさせるタイプのノミ駆除薬を使いました。
フードに混ぜ、それとなく猫に食べさせます。
薬は吸収され、猫の血液に入り、その血を吸ったノミは死滅します。
数日後、伺ったときにはノミは完全に姿を消していました。
‥‥とここまでは、私にとってはよくある話です。
印象深かったのは、この飼い主さんです。
この方は、非常に理知的な方でした。
事態の経過を時系列的に述べ、
その状況説明も具体的でした。
話の展開に一切の無駄がありません。
あまりに淀みがないので、専攻中の学術分野を伺いました。
理数系の博士課程に籍を置く方でした。
そして、私が再診を終えて帰ろうとしたとき。
ポツリと言ったのです。
「今思えば不思議ですが、あの時は『猫さえいなくなれば』と思っていました」
今はどうかと尋ねたところ、
「猫に対する悪い感情などありません。よく考えれば、ノミさえいなくなれば良かったのです」
精神的に参っていたのかも知れない、そう結んでご自身の足元に視線を落とします。
まだ赤みがありましたが、ノミの刺し跡も薄らいでいました。
どんなに理論的に思考する人でも、過度のストレスで正常な判断が出来なくなることがあります。
そもそも何が原因なのか、一呼吸置いて考えることも大事ですね。