往診獣医の事件簿 7 〜神里邸に急行せよ〜
住所さえわかれば現場に到達できる、
実に便利な世の中です。
とは言え。
予約時に、こう言われる事があります。
「カーナビの通りに来ると変なとこに着きますから、近くに着いたらお電話下さい」
なるほど、そういうこともあるでしょう。
念のため、ひとつ確認しておきます。
「表札は出ていますか?」
「出ていますよ〜、神里と」
よかった。
表札の出てないお宅もありますから‥‥。
‥‥というわけで、現場近くまで来たのですが。
「あの、神里さん、すいませんやっぱりわかりません」
「今、どちらですか」
「大きな白壁のお家の前で‥‥表札は‥‥神里と‥‥」
「うちじゃないですね、もっと先です」
もうちょっと車を進めます。
道はどんどん狭くなって来ます。
「神里さん、いま錆びた鉄柵と芝生のある家の前です、表札は神里さんですが‥‥ここですか」
「あっ、その裏手ですよ。私いま、道に出ますから」
裏手、裏手と‥‥。
ところが裏に回ろうとすると、
一方通行の道路を逆行してしまうようです。
やむを得ず、バックします。
しかし狭い道で、傾斜がある上に曲がっています。
こすらないように、ソロソロと車を動かします。
切り返し切り返し、何とか元の場所に戻りますが、
もはや目的地までの道筋がわからなくなっています。
もう一度電話を掛けましたが、お出になりません。
あらかじめお伺いしていたのは自宅の電話番号。
ご本人は今頃、道へ出てしまわれているわけです。
とりあえず、こっちかなという方角へ進みますが、
その道もすぐに湾曲し、私を未知の小道に誘います。
夜も遅くなって来ました。
「これはいかん。とりあえず、近所の人に神里さんのうちを尋ねよう」
そう決めて車を降ります。
そして、目の前にあった家の表札は
「神里」。
しかし状況から判断して、
ここも目的地とは別の神里さんです‥‥。
そうです、沖縄ではごく狭い地域に
同じ苗字の方が密集していることがあります。
これはもちろん他の地方でも見られる事でしょうが、
沖縄は特にこの傾向が強いように思います。
結局、電話がつながって、何とか目的地まで
たどり着くことができました。
それからは、家の電話しかお持ちでない方は
その時間に電話の近くにいていただき、
代わりに家の前に何か目印を置いていただくようにしています。
ご面倒をお掛けしますが、ご協力お願い致します。