南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

君は「ボルバキア」を知っているか

「抗生剤で犬のフィラリア症を治療する!」

ひと昔前に獣医師がそんなことを言ったら、
「抗生剤で寄生虫は死なんでしょうが!」
とお叱りを受けたでしょう。

実際、犬のフィラリア症の原因は
「犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)」
という線虫であって、細菌ではありません。
だから、抗生剤でやっつける事はできないはずです。

しかし、私の往診カバンの中には
フィラリア症の犬に処方するための抗生剤」
が入っています。
なぜでしょう?

その答えを与えるのが、
「ボルバキア (Wolbachia pipientis) 」
という細菌です。
ボルバキアはリケッチア目というグループに属し、
「細胞内でしか生きられない」
という特徴があります。


(Wikipedia)

そこで、彼らはフィラリアの細胞内で暮らします。
しかし、ただ暮らすわけではありません。

実に恐ろしいことをやってのけます。

1.オス殺し
フィラリアにはオスとメスがいます。
実は、ボルバキアは精子の中では暮らせません。
つまりフィラリアが世代交代するとき、
オスからでは次世代へ命をつなげないのです。
そこでボルバキアはオスに感染して死滅させます
ところがメスは感染しても死にません。
ボルバキアはメスの卵の中では暮らせるので、
メスを介して子孫を残せます。
ボルバキアにとって役に立たないオスが死ねば
その分メスの栄養摂取量が増えるので、
ボルバキアは子孫を残しやすくなります。

2.強制的な性転換
しかし、もしそこにいるのがオスだけだった場合、
ボルバキアは困ってしまいます。
オスを殺してしまえば、自分たちもより所を失います。
かと言って、そこにメスはいない‥‥。
その場合、何とオスをメスに性転換させてしまいます。
これで安心してメスの体内で暮らすことができます。

3.単為生殖
さて、メスだけになると大きな問題が出てきます。
暮らしてはいけるのですが、犬糸状虫の寿命は数年。
数年後には自らがお世話になっているメスも死にます。
かと言って、オスは死滅させてしまいました。
次の世代に乗り移ることはできません。
そこでボルバキアはフィラリア
「メスだけで生殖できる体」
に作り替えてしまいます。
つまり、
「ボルバキアに感染したメスだけが子孫を残せる」
という状況を作り上げてしまうのです。


さてここまで話を進めると、ボルバキアが
一方的にフィラリアを利用する様にしか見えません。

ところがどうやら、
フィラリアの側にもメリットがあるようなのです。

なぜなら、ボルバキアが死滅すると
フィラリアの寿命が短くなる
・メスの生殖能力が失われる
ことがわかっているからです。

つまりボルバキアは
フィラリアの生存・繁殖に恩恵を与えている、
共生関係にある細菌ということになります。

また最近の研究で、
犬のフィラリア症の症状のうちのいくつかは
犬糸状虫そのものによるものではなく、
ボルバキアの影響なのではないか
という可能性が出てきました。

ということは
「ボルバキアをやっつける」
というのは犬のフィラリア症に対して
効果的な方法であると考えられます。

冒頭で
「抗生剤で犬のフィラリア症を治療する」
と書いたことの真意がここにあります。

もし、一緒に暮らしている犬がフィラリア症で、
獣医師から抗生剤の使用を勧められたら
上のような理由があると考えて下さい。

本当に生物の世界は深遠です‥。


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