南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

子供の日、そして狂犬病

こどもの日。ということで子供がらみのことを書きます。

私は狂犬病の集合予防注射で色々な場所を回ります。このとき、会場で必ず確認することがあります。

それは、

「近くに子供が多く集まっている場所はないか」

確認するということです。

 

これは、連れてこられた犬が逃走した場合に備えてのことです。

会場は多くの場合、公民館ですから近くにたいてい小学校や幼稚園があります。

集合予防注射の日は土日が多いのですが、その日も行事などで学校に子供がいたりします。また、平日に集合注射日程を組む自治体もあります。

 

「会場内で犬が逃走した場合、一直線に門まで疾走すれば犬に先回りできるだろう」

「途中水たまりがあるが、あの大きさなら飛び越せるだろう」

「会場外へ出たら、坂を下った所に幼稚園がある。そっちへ行かせないように、まず坂下に回り込もう」

 

注射の準備をしながら、そういったことをシミュレーションします。

とにかくいち早く反応し、逃走経路に先回りすること。

何より安全第一ですし、それに集合注射は時間内に終えねばなりません。次の会場に何時何分に入る、ということが決まっています。

大捕り物をしている時間はないのです。

 

実際、過去にも何度かそのようなことがありました。

そのつど、役場の方や住民の方の協力をいただいて捕まえることができました。

幸いなことに咬傷事故は起こっていません。

 

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さて、子供の話をするのでした。

ここに、狂犬病についてWHO(世界保健機構)がまとめた報告書があります。

 

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/43262/WHO_TRS_931_eng.pdf?sequence=1&isAllowed=y

 

121ページに及ぶ大変読みごたえのあるものですが、その43ページに注目すべき記述があります。

 

Children under 15 years of age are the most frequently exposed age group, representing approximately 50% of human exposures in canine rabies-infected areas.

(15歳以下の子供は最も頻繁に感染を受ける年齢層であり、狂犬病感染地域の感染者の約50%を占める)

 

わかりやすく言えばつまり、

「子供は狂犬病の犠牲になりやすい」

ということです。

狂犬病はほぼ犬からの咬傷によって感染しますから、これは子供は犬に咬まれやすいということを意味します。

つまり

犬の危険性を察知できなかったり、抵抗できなかったり、回避能力がなかったりするので咬傷を受けやすい、

というのが大きな要因だと考えられます。

 

この報告書を見てから、私も集合注射時に犬の逃走には一層気をつけるようになりました。

その犬が狂犬病ウイルスを持っていなくても、咬傷事故が起きる可能性は子供において高いわけですから。

 

興奮した犬が幼稚園に突入していくのを

「知りませんよ、飼主さんが自分で捕まえてください」

というわけにもいきませんが、もともとは飼主さんに管理責任があるわけですので首輪やハーネスの装着、しっかりとお願い申し上げます。

 

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