猫のエサやり問答 (1)
往診中、少し時間が空くことがあります。
公園の駐車場に車を停めて、少し身体を伸ばそうと車外に出ると。
おやおや、まただ‥‥。
ここは海岸沿いの大きな公園。
最近、野良猫が増えています。
あたりを見回すと‥‥。
むむっ、いました。
キャットフードを撒いて歩いているのは60歳くらいの男性。
声を掛けてみます。
「こんにちは」
「ああ?!」
「猫、たくさんいますね」
「‥‥‥邪魔だよ」
「邪魔?」
「あんたがいると逃げるだろ」
確かに私がいると、猫は警戒して寄ってきません。
少し離れた所から声を掛けます。
「‥子猫、どんどん生まれてますね」
「死ぬよ、全部」
「‥‥死ぬ?」
「カラスがくわえて持ってくよ!増えないの!あっち行けよ!」
男性は黙ってキャットフードをばらまきながら歩いています。
距離を取りながら、話しかけます。
「ここで生まれた子猫ね、保護して、避妊去勢して、譲渡してる方がいるんです。費用も全部自分で出してね。私、知ってるんです」
「関係ないよ!」
「あなたがエサやって、猫が増えて、その猫が殺処分されても関係ないですかね‥‥」
「うるさいよ!増えないの!どっか別の場所へ行くの!大きくなったら!猫はそういうもんなの!」
声を荒げて行ってしまいました。
このような方には繰り返し繰り返し、避妊去勢の意義を説明して、猫の数を減らす活動に協力いただけるように説得するしかないように思います。
エサやりの人はその場所の猫の生息数に詳しい。
また、それぞれの猫の性格や特徴を把握しています。
警戒心の強い猫、怪我をしている猫、妊娠中の猫。
その地域でひとたび避妊去勢の活動が始まったとき、捕獲するにあたり大きな助けになるはずです。
それにしても、姿を消した猫は本当に「どこか別の場所」へ行ったのでしょうか。
そうだとしたら、一体それはどこなのでしょうか。
もし、その疑問を抱いた人物が、往診の合間に公園を探索する物好きだったら。
ある昼下がり、公園のはずれ。
防波堤の下をのぞき込んで、ゴミ溜まりの中にそれを見つけるでしょう。
拡大して、マーキングしてみましょう。
猫は確かに、ある日急にいなくなります。
彼らはどこへ行くのか。
少なくとも、理想郷ではないようです。
いま、日本各地で「殺処分することなく野良猫を減らそう」という動きが広がっています。
色んな意見のある人がいますが、まずは現場の情報を共有して、共通のゴールを設定することから始めるべきだと思います。
意見を述べることや会議をすることは、とても大事なことです。
しかし、現場を歩くことを忘れてはいけません。
そして、現場の人の声を聞くことも。