南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

猫のエサやり問答 (2)

 

前回の投稿について、少し書き足しておきましょう。

 

まず、この写真を見てください。

 

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この高齢の女性は一人暮らしで、膝には人工関節が入っています。

 

奥に猫が見えますが、この猫はさくら猫です。

 

さくら猫については以下をご参照ください。

 

彼女は近所の猫を捕まえては避妊去勢し、耳をさくらカットしてもらって、もと居た場所に帰しています。

 

しかし、その町には彼女を批判する人が多くいます。

 

なぜなら、彼女は猫をなつかせて捕獲しやすいようにエサをやり、避妊去勢が終わった後も愛着がわいてエサをやります。

しかし彼女が本当に望んでいることは、避妊去勢の終わった猫が誰かにもらわれて町を離れることなのです。

 

この地域は住宅密集地で、近くには飲食店もあるので糞尿被害や騒音の苦情が発生します。

 

彼女は日に何度も皿や猫の糞を片付けながら歩いていますが、足が悪いので上手くしゃがむことができません。

昨年は段差で転んで入院されました。

 

町には彼女のやり方に批判的な人も多くいます。

「結局、また猫を放すんじゃないか」

「捕獲できなかった猫が子供を産んでるじゃないか」

「糞尿被害は相変わらずじゃないか」

 

確かに、批判する側にも道理はあります。

それにきわめて総論的なことを言えば、その地域の人すべてに対して地域猫の理解や共感を求めることは困難でしょう。

 

ただ、ひとつ確かなことは、彼女が

「この地域で猫が増えないように努力している」

ということです。

 

この町の他の人と同じように

「猫にではなく、自分の人生に時間やお金を使う権利」

が彼女にもあるはずなのです。

 

しかし、彼女は今日も痛む足を引きずりながら、まだ耳カットされていないノラ猫を追っています。

 

冷静な見方をすれば、彼女は

「その地域の猫を捕獲して避妊去勢させることに特化した能力」

を持っています。

 

路地裏から袋小路まで、猫のいる場所や頭数をかなり正確に把握しています。

これは、誰かが瞬間的に獲得できる能力ではありません。

 

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人は、送りバントの名手にホームランを要求するでしょうか。

ある一点において卓越した技術を持つ人物に、それ以上の付加価値を求めるべきでしょうか。

 

出塁率の高い1番打者、長打力のあるクリーンナップが前後を固めれば、送りバントの名手は最高の仕事をするでしょう。

 

大切なのは、特定の個人に多くを要求しないことだろうと思います。

 

各地に点在する地域のボランティアさんには高齢者が多く、ネットを介した情報発信や譲渡活動を得意としない傾向にあります。

 

一方で、若い世代の方はクラウドファンディングを活動資金に充てたり、人が集まるイベントを企画してそこで譲渡会を開いたりします。

 

捕獲を手伝う人。

譲渡会に連れて行く人。

それまでの期間、保護する人。

その情報を拡散する人‥‥。

 

それをつなぎ、応援する力が必要です。

 

 

譲渡会に場所を提供してくれる企業も多くなってきました。

 

明日も浦添市牧港のホームセンターさくもと別館で譲渡会があります。

 

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皆さんも、ぜひ譲渡会に足をお運び下さい。

実際に犬猫を引き取ることができなくても、少し想像してみてください。

 

命がどうやってここまでたどり着いたのかを。

そして、自分にできることは何かないだろうかと。

 

 

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