どうぶつえんにいきました。 (1)
今から30年以上前。
私がまだ子供だったころ。
動物園に連れて行ってもらいました。
母親に手を引かれて、天王寺駅から歩きました。
途中、降り注ぐジャイアンリサイタル並みの大音量。赤ら顔のオッチャンたちが青空カラオケに興じていました。
酒くさい、ひどく音程の外れた演歌。
それはまるで通天閣から延びた根っこのように、昭和の街の中を抜けていました。
パチンパチン響く駒の音。
あるオッチャンたちは歩道の上に盤を置いて、一日じゅう将棋を打っていました。
路上に寝そべる順番待ちのオッチャンたち。
酒が回り、歩道の上でイビキをかいてる人もいました。
手を繋いで信号待ちのとき、次のひと口に及ぼうとした瞬間に消えうせたパン。見知らぬオッチャンが、口をモグモグさせ不敵な笑みで振り返りました。
呆然と立ち尽くす幼児の耳に流れ込むのは、「アウッ!アウッ!」というアシカの鳴き声と青空カラオケの大音量が奏でる奇妙なアンサンブル。
「世間の常識が当てはまらぬ地だ」
子供ながらにそう感じたものです。
天王寺界隈は、むかし確かにそんな地域でした。
そして当時の天王寺動物園がまとっていた雰囲気、それは間違いなく街の空気の延長線上にありました。
私は動物園が大好きでした。
動物が好きでしたから。
しかし当時、オリの中の動物たちは決して幸せそうに見えませんでした。
「この動物たちは商業主義的な意味で飼育されているのだ」
子供ながらにそう感じたものです。
さて。
今度は私が子供たちを動物園に連れて行く年齢になりました。
正月、家族を連れて大阪に帰り、30数年ぶりに訪れた天王寺動物園。
大きな建物がたくさん建って、天王寺のあたりもすっかり変わりました。
この大都会の中、動物たちはあの頃よりもっと肩身の狭い思いをしているのではないかー。
キリンもライオンも、狭いオリの中で、切り取られた空を見上げて泣いているのではないかー。
ところが‥‥‥。
?????!
あれ?
こんな広かった?
地上300m・日本一高いビル「あべのハルカス」を眺めるキリン。
キリンを眺めるライオン。
そこは、私の知っている天王寺動物園ではなかったのです。
いったい、この動物園に何が起こったのでしょうかー。
次回に続きます。