PCR検査とは? (2)
「PCR検査とは?」の続きです。
例えば、ある「日本昔ばなし」の本。
背表紙もなく、文章もバラバラにされています。
もともとは何の話だったのか‥。
しかし、ヒントはあります。
「背中に」「ごちそう」「そのとき、白い」
もしや、このお話は‥。
そこであなたは助手にこう頼みます。
「この文章の中から玉手箱という言葉を探してほしい。探し当てたら玉手箱という言葉だけ何枚も何枚もコピーしてくれないか。それをひたすら続けてもらいたい」
数時間後、あなたは現場に戻ります。
あたりは紙切れだらけです。
両手でそれをすくいあげます。
「玉手箱」、「玉手箱」、「玉手箱」、「玉手箱」、「玉手箱」、「玉手箱」‥‥。
何と「玉手箱」の紙切れだらけです。
それもそのはず。
もともとの文章の中に「玉手箱」という言葉が存在していたようです。
あなたの助手は「玉手箱」と書かれた紙切れだけを増やし続けたので、部屋は「玉手箱」だらけになりました。
これならば、誰にでもわかります。
このお話は「浦島太郎」だと。
PCR、すなわちポリメラーゼ連鎖反応とは
「特定のDNA断片を増殖させる手段」
を言います。
DNAとは遺伝情報を担う、長い物質です。
ヒトだと30億塩基対という、要するにとてつもなく「長い物語」なのです。
これを全て読んでいくのは大変です。
しかし、たいていの物語には、そのお話を象徴する「短い言葉」が含まれます。
浦島太郎なら「玉手箱」
桃太郎なら「きびだんご」
ヘンゼルとグレーテルなら「お菓子の家」‥‥。
そこであるDNAについて調べるとき、
「その生物のDNAが持っている特有の言葉(断片)」の有無を調べるわけです。
そのために、その断片だけを増幅させるという仕掛けをします。
上の例えでは「玉手箱」がその断片にあたるわけです。
(断片化されたDNAは「電気泳動」という技術で分離・可視化される:10年前の筆者の研究ノートより)
実際は「玉手箱」以外の部分まで断片化しなくてもPCRは可能です。
今回「ある特定の断片だけを増幅させる」ことを分かりやすくするため、他の領域もバラバラにして説明しました 注)
ちなみに、いま問題のコロナウイルスはDNAウイルスではなくRNAウイルス。
そこでRNAを標的とするRT-PCR法という技術が使われますが、特定の遺伝子断片を増幅することに変わりはありません。
‥‥すると今度はDNAとRNAの違いについて説明しないといけなくなりましたね‥。
これはまたいずれ。