南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

猫のコロナウイルス感染症

 

今日は猫のコロナウイルスのお話をします。

猫にもコロナウイルス感染症があります。

検査項目にも、この通り。

 

f:id:oushinjuui:20200213162534j:image

 

しかし、「猫コロナウイルス感染症」という言葉はあまり聞かないような気もします。

 

では、この病名はどうでしょうか。

 

猫伝染性腹膜炎。(ねこでんせんせいふくまくえん)

Feline lnfectious Peritonitis : FIP

 

これは、変異した猫コロナウイルスが原因の感染症です。

 

本来、猫のコロナウイルスは猫の腸内でしか増殖しません。

数日間の下痢で治ってしまう例が多く、中にはまったく症状の出ない子もいます。

 

ところが猫コロナウイルスがひとたび「変異」を起こすと、猫の命を奪う感染症に変貌します。

それが猫伝染性腹膜炎です。

 

症状は「腹水や胸水が溜まるウェットタイプ」、「神経症状や多臓器不全を起こすドライタイプ」に分類されますが、致死率はほぼ100%‥‥。

なぜ変異が起こるのか。

それは残念ながらまだ分かっていません。

 

治療は極めて困難です。

日本国内で承認されたワクチンも治療薬もありません。

 

しかし昨年、海外で動きがありました。

カリフォルニア大学デービス校の研究チームが

GS-441524という物質を発見。

GS-441524を投与された猫伝染性腹膜炎の猫31匹うち、18匹が助かっています。

 

参考文献↓

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X19825701

 

残念なことに日本ではこの物質は承認されていません。

簡単に入手できるものではありませんし、しかも非常に高価です。

猫伝染性腹膜炎についての現状はいまだ厳しいと言えます。

 

しかし、国内に希望が全くないとも言えません。

 

例えばタミフルは人のインフルエンザの薬ですが、犬のパルボウイルス感染症の生存率を上げる可能性が示唆されています。

 

また、リファンピシンという人体薬はもともと結核ハンセン病に対して用いられる抗生剤でしたが、認知症への予防効果があることが近年見出されました。

 

 

既存の薬で、あるいはその組み合わせで突破口が開ける可能性はゼロではありません。

 

また、以前に比べて情報共有は格段にしやすくなりました。

「既存の薬が効いた」という例を埋もれさせないためにも、学術的な場のみならずオープンに情報がやりとりされることが大事だと思っています。

 

そしていま、私が心配しているのは‥‥。

 

猛威を振るっているヒトの新型コロナウイルス感染症で猫と同じことが‥‥つまり、とつぜん致死的な形質への「変異」が起こらないだろうかということです。

 

コロナウイルスの暴走が猫ではしばしば起こることを、我々獣医師は身近に経験しています。

 

ワンヘルス。

 

あらゆる専門領域、国家も民間も、経験を集約させて立ち向かうときです。

 

f:id:oushinjuui:20200214001324j:image