獣医学と歴史(9) 〜歴史を蘇らせるということ〜
一年ほど前、英語の
「quarantine」 = 「検疫する」
の語源がイタリア語であって、
その意味は「40」であることを書きました。
ペスト拡大を防ぐため、ヴェネツィア共和国は感染地域からの船の入港をストップ。
40日間、海上にとどめ置きました。
驚くべきは、これが近現代ではなく14世紀に行われた防疫措置だということです。
しかもヴェネツィア政府は、当初30日だった検疫期間を40日に延長しています。
的確に、そして柔軟性をもって対応していたことがわかります。
当時はPCR検査もなければ、そもそも細菌やウイルスといった病原体に関する基礎的な研究もなされていません。
しかしこの時代でも、
「今までの例からすると、これくらいやっておかんといかんだろう」
という鋭敏な感覚は醸成されていたはずです。
そう言えば、イチロー氏の最大の功績は何か、という問いにある人が答えていました。
「忘れ去られていた偉大な選手たちを、我々の前に蘇らせたことだ」
イチロー氏が安打の歴代順位を上げるたびに、「誰々を抜いて何位」という表現が踊りました。
そのたび、イチロー氏が肩を並べた過去の名選手は記録の淵から遡上し、21世紀に生きる我々の前で躍動したのです。
(Ichiro Suzuki : Wikipediaより)
よい時も悪い時も、
「先人が何をしたのか」
を掘り起こすことは非常に大事です。
私は獣医学という理系の学問領域の人間ですが、歴史学というのは尊いと思います。
それは獣医学にも「経験学的な側面」があって、過去の症例から学ぶ事が非常に多いからです。
もちろん最新の知見、新しいアプローチは大事です。
しかしその土台には過去の知識が集積されています。
新型コロナウイルスに関しては、どうしても先のことばかりに目が行きがちです。
しかし、
「先人たちは感染症とどう戦ってきたのか」
それを学び直す視点も大事だと思います。
なぜ歴史学という学問領域が存在するのか。
「きっと、未来の人々が意味を見出すであろう」
記述した先人の意を無駄にしたくはないものです。