往診獣医の事件簿 1 ~謎の済票~
往診をしていると、ときに不思議なことに出会います。
皆さんは、狂犬病の予防注射のあとに受け取る
「済票」(ずみひょう)
というものをご存知でしょうか。
市町村から発行される、小さな金属のプレートです。
ちなみに那覇市のはこんな感じです。
さてその済票にまつわる、奇妙な出来事がありました。
予防注射に行き、済票をお渡ししていたときのこと。
「先生、このカネでできた板ね」
「ああ、狂犬病予防注射ズミヒョウ」
「それそれ。1頭につきひとつよね」
「そうです」
「たくさん出したりしないよね」
「1頭につき、1年に1度、ひとつずつ」
「じゃあ、やっぱり変だ」
そう言って飼い主さんが持ち出してきたのは、ぼろぼろの済票です。
二枚あります。
「この子のですか?」
「それが違うんだよ、この子のは別にある」
「じゃ、誰の…」
「それがわからない。突然、家の前に置いてあった」
「????」
「最初はこの子がこっそり昔のを貯めてたのかなって」
「いやいや、これ番号違いますよ。この子のじゃない」
「じゃあ、やっぱり誰かが置いたわけだ‥‥」
不可解きわまりない出来事です。
「心当たりは‥‥?」
「それがね、変な話なんですけどね」
飼主さんも煮え切らないような表情です。
「知らない犬が、帰ってくの。後ろ姿だけしか見なかったけど」
「これを置いて?」
「かも知れない。うちの犬が、吠えるでしょ。そんで出てみたら、その犬が逃げていくわけよ。そして、これが」
「ジャラジャラっと置かれていた、と‥‥」
「そう。タイミング的には、そうだった」
実に不思議な事件です。
飼主さんと二人で頭をひねっても、
「それだ!」
という答えは出てきません。
少なくとも
・何者かが別の犬から済票を外した
・何らかの理由で、ここで飼われている犬の前に置いた
ことは事実のようです。
そして、未だにこの事件は謎のままなのです。
犯人は後ろ姿だけ見せた犬のなのか‥‥。
さあ、謎が解ける日は来るでしょうか。