南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

現場は語る 

まずは、下の写真を見てください。

 この子には狂犬病の予防注射を打ちに来ました。

健康なら、ワクチンを打てます。

 

しかし、この写真。

どこかに気になる点がー、

見逃してはいけない点があるのです。

f:id:oushinjuui:20190114003131j:plain



さて、いかがでしょう。

爪はやや伸び気味です。

しかし、過度に巻いているわけではありません。

 

毛は、手入れされているとは言いがたい。

しかし抜け毛やフケなど、皮膚疾患を疑う徴候はなさそうです。

 

鼻水も出ていないようですし、

見える範囲では歯石もたまっていません。

 

そして、この口角の上がりかた。

機嫌もよさそうです。

一見、健康そうですが・・・・。

 

しかし、このレベルの観察で

「問題なさそうだぞ」

と判断してはいけません。

重要なことを見落としています。

 

この写真、絶対に見逃してはいけないのは、ここです。

f:id:oushinjuui:20190114003156j:plain

 

これは、血液の跡です。

拡大してみましょう。

f:id:oushinjuui:20190114010528j:plain

どこかから出血があったのです。

そして、この線のひき具合。

粘り気があることがわかります。

血液に膿が混じると、このようになります。

 

このお宅に犬はこの子だけ。

つまりこの子の体のどこかから、膿と血液が同時に出ていることがわかります。

この子はメスで、避妊手術はされていません。

とすると、最も可能性の高い病気は・・・・。

 

すぐに陰部から採材して、顕微鏡検査を行います。

そして腹部に超音波をあてます。

 

やはり。

子宮蓄膿でした。

読んで字のごとく、子宮に膿が溜まる病気です。

 

この子の場合、外見上は陰部に血も膿も付着していませんでした。

しかし、犬は自分の体から出たものを舐めとる習性があります。

それに加えて、この子は意外に元気でした。

飼主さんは全く気付いていらっしゃらなかった症例です。

 

往診の現場では、獣医師は動物だけを見てはいけません。

それはまた、飼主さんにも言えることなのです。

日々の観察は、とても重要です。

 

f:id:oushinjuui:20190114010309j:image