現場は語る
まずは、下の写真を見てください。
この子には狂犬病の予防注射を打ちに来ました。
健康なら、ワクチンを打てます。
しかし、この写真。
どこかに気になる点がー、
見逃してはいけない点があるのです。
さて、いかがでしょう。
爪はやや伸び気味です。
しかし、過度に巻いているわけではありません。
毛は、手入れされているとは言いがたい。
しかし抜け毛やフケなど、皮膚疾患を疑う徴候はなさそうです。
鼻水も出ていないようですし、
見える範囲では歯石もたまっていません。
そして、この口角の上がりかた。
機嫌もよさそうです。
一見、健康そうですが・・・・。
しかし、このレベルの観察で
「問題なさそうだぞ」
と判断してはいけません。
重要なことを見落としています。
この写真、絶対に見逃してはいけないのは、ここです。
これは、血液の跡です。
拡大してみましょう。
どこかから出血があったのです。
そして、この線のひき具合。
粘り気があることがわかります。
血液に膿が混じると、このようになります。
このお宅に犬はこの子だけ。
つまりこの子の体のどこかから、膿と血液が同時に出ていることがわかります。
この子はメスで、避妊手術はされていません。
とすると、最も可能性の高い病気は・・・・。
すぐに陰部から採材して、顕微鏡検査を行います。
そして腹部に超音波をあてます。
やはり。
子宮蓄膿症でした。
読んで字のごとく、子宮に膿が溜まる病気です。
この子の場合、外見上は陰部に血も膿も付着していませんでした。
しかし、犬は自分の体から出たものを舐めとる習性があります。
それに加えて、この子は意外に元気でした。
飼主さんは全く気付いていらっしゃらなかった症例です。
往診の現場では、獣医師は動物だけを見てはいけません。
それはまた、飼主さんにも言えることなのです。
日々の観察は、とても重要です。