南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

往診獣医の事件簿3 〜犯人はどこに 前編〜

ここは、沖縄本島南部、糸満市の果樹園。

苦しんでいるのは、一歳にもならない琉球犬です。

 

子犬ではありませんが、まだ幼さが残ります。

直前までとても元気だったといいます。

 

それが、突然の嘔吐。

小刻みな身体の震え。

横になって動きたがりません。

促すと立ち上がろうとはしますが、

下半身に力が入りません。

 

もし、この犬を私が診察室で診たら。

恐らく、吐瀉物を検査するでしょう。

そして消化器症状があるわけですから、

画像診断を行うかも知れません。

血液検査も行うでしょう。

神経症状が出ているのも気になります。

 

ともかく、

「そこにあるもの」

「そこにいるもの」

から情報を得ようとするでしょう。

当然です。

 

しかしいま私が立っているのは、

切り取られた空間ではありません。

 

そこには日が照りつけ、虫が飛び、

足の下には土壌があり、農園を吹きわたる風があり、

名も知らぬ植物がその風に揺れています。

 

「そこにあるもの」

の情報量が圧倒的に多いのです。

 

f:id:oushinjuui:20190110015937j:image

 

ここは飼育環境をひとまず置き、

目の前の動物に集中するべきでしょうか。

 

一応、一通りの血液検査機器、超音波装置、

顕微鏡などは持って来ています。

出来うる検査を全て行えば、

真相に近づくかも知れません。

 

しかし、飼い主さんの負担する治療費は

大きな額になるでしょう。

それに、あと一時間後には、

次の往診地点に到着せねばなりません。

そこでも獣医の到着を今か今かと待っています。

 

膨大な情報、限られた予算、限られた時間。

その中で正確な診断を下し、

かつ的確な治療を施さねばなりません。

 

さあ、獣医はもう一度、頭を整理します。

この症例にどうアプローチすれば良いのでしょうか。

 

明日の後編に続きます。

 

f:id:oushinjuui:20181130013111j:plain