南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

メスなのに去勢?の話

たまに、往診先で去勢手術をすることがあります。

普段は去勢を依頼されても、手術室のある動物病院さんをご紹介するのですが…。

 

しかし、「このままでは多頭飼育崩壊!」

というようなケースでは、緊急的にオスだけ現場で不妊化することがあります。

もちろん、滅菌された器具を準備して、麻酔をかけて行います。

去勢手術なら手術箇所も狭い範囲なので比較的短時間で済みます。

 

しかし、避妊手術はそうはいきません。

お腹をあけるわけですから。

切る範囲も大きくなり、手術時間も伸びます。

現場でやるとなると、結構大変なのです。

ですから、往診先では避妊手術をしないことにしています。

 

問題はここからです。

広くいきわたっている共通認識としては

 

去勢手術=オスを不妊化するもの

避妊手術=メスを不妊化するもの

 

なのですが、たまにこの認識をお持ちでない飼主さんがいらっしゃいます。

 

去勢してほしい、ということで見に行ったら、メスなのです。

「何だ、メスじゃないですか。こりゃあ去勢はできません」

「どうしてですか」

「いくら何でも、無いタマを取るわけには…」

「だから、卵巣とか子宮とかを去勢して欲しいと思ってお呼びしたんですよ」

「う~ん、そりゃあ避妊手術と呼ぶんです」

 

どうやら、ある割合で

「去勢=オスもメスも不妊化すること」

という理解の方がいらっしゃるようです。

 

念のため、私も調べました。

何せ、Wikipedia全盛のご時世です。私もよくお世話になります。

 

どれ、「去勢」、と・・・。

 

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えっ・・・?

♂も♀も去勢?

 

驚いたことに、辞典の定義するところでは

「去勢」=「雌雄にかかわらず妊娠させない処置」

をさすようです。

ですから一部の飼主さんの表現は、必ずしも誤りでない事になります。

 

ただ、実際の使い方としてはやはり

去勢手術=オスを不妊化するもの

避妊手術=メスを不妊化するもの

であろうと思います。 

 

言葉は生き物ですから、その定義は時代によって変わります。

現代は恐らく、

「去勢はオスに対してのみ用いられる言葉である」

という解釈への最終段階なのかな、と感じます。

 

ともかく、獣医療ミスにつながると大変です。

去勢、避妊は慎重に言葉を選びましょう。

知り合いの動物看護士の方も同じことを言っていました。

不妊手術の予約のお電話があったら、必ず性別を確認すると。

去勢と言ってメスを連れてくる飼主さんがいらっしゃるから、ということでした。

 

皆さんも動物に不妊手術を受けさせるときは、よく注意してください。

 

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