南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

往診獣医は、正座する

週二回、往診のあと少年柔道教室に行きます。

たくさんの少年少女たちと柔道をしています。

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私も子供のころ、柔道をやっていました。

その後、陸上競技に転向しましたので

道着に袖を通したのは20数年ぶりです。

自分の子供にも、よその子供にも 受け身や帯の結び方などを教えます。

そして、正しい正座の仕方も。

 

前置きが長くなりました。

 

往診獣医にとって「正座」はたいへん重要な姿勢です。

お部屋へ通され、テーブルと椅子がある。

 

「どうぞこちらへお掛け下さい」

「いえいえ、ここで結構です」

 

そして、私は正座します。

そこがフローリングでも、タイル張りでも。

たいてい飼主さんは驚かれます。

「いやいやそこではあまりに失礼な…」

しかし正座がいいのです。

なぜか?

 

理由は3つあります。

 

理由1.動物を観察しやすい

正座すれば、視線は低くなります。

すると犬でも猫でも、全身を観察できます。

足にむくみはないか、あばらの浮き具合はどうか。

腫れている所はないか、歩様はどうか。

もし上から見下ろすと、死角が多すぎるのです。

かといって私の目線に合わせるために、テーブルの上に動物を乗せると?

飛び降りてケガをさせるかもしれません。

 

理由2.動物が安心する

正座すれば、自然と体は小さくまとまります。

一般に、動物は自分の力を誇示するときは体を大きく見せます。

クマやアリクイは立ち上がりますし、猫は毛を逆立てます。

エリマキトカゲのエリマキは、そのためにあります。

ですから私は、その逆をいきます。

動物の警戒心を解くために身を屈するわけです。

向こうから匂いを嗅ぎによってきたら、もうオッケーです。

大抵のことはさせてくれます。

何せ採血から爪切りから、保定なしでやらねばならないわけですから、

警戒されたら終わりです。

 

理由3.動物から見た世界が見える

観葉植物の誤食、電気コードの咬みちぎり。

飲ませるのに失敗した錠剤、吐き出された毛玉…。

動物の視線の景色は、その動物の生活環境を反映します。

彼らがふだん何を見、何をしているのか。

視線を下げると、それがよくわかります。

そこから、診断のヒントが得られることがあります。

 

……というようなわけで、

柔道の話はここにつながります。

正座することには、子供のころから慣れているわけです。

 

練習している子供たちを見ながら

「この中の誰かが、往診獣医になったりするかな…」

と、淡い期待をいだく日々です。

 

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