南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

黒猫の「キキ」が語ること

この子は、往診先の黒猫です。
名前は「キキ」。

ん??
と思った方。
そうですね。

映画「魔女の宅急便」では
主人公の女の子が「キキ」で、
黒猫は「ジジ」です。

とすると、
写真の子の名前は「ジジ」なのでは?
そう思いますね。

でも、この子は「キキ」なのです。
その名がついたのには理由があります。

この子の母親は、この子を産んですぐ
車にはねられて死んでしまいました。

まだ乳飲み子だったこの子は、
遺体に取りすがって路上で泣いている所を
ボランティアさんに保護されました。

「発見がもう少し遅かったら、
この子も轢かれていたでしょう」

まさに、危機一髪でした。
だから、キキと名付けられたわけです。

今ではすっかり大人の猫です。



「猫が飢えてかわいそうだ」
という理由で、
大量にエサをバラまいて帰る人がいます。

しかし、
同時並行で不妊化を進めない限り、
餌やりの結果として猫が増えてしまいます。

すると道路で轢かれて亡くなる猫、
親を失う子猫も増えてしまいます。

また、轢かれた死体を回収するのにも
毎年多くの税金が投入されます。
その税金は本来、もっと有効に
動物愛護・動物福祉に使われるべきものです。

無責任・無計画なエサやりの結果、
猫たちがその後どうなってしまうのか。
その視点を欠いてはいけないと思います。

もう一つ、大事な事があります。
このようなエサやりをする方を
一方的に責め、孤立させてはいけません。

この方はなぜ、そのようなことをするのか。

黒猫にキキと名付けられた理由がある様に、
その方の行動にもまた、理由があります。

すべてを拒絶するのではなく、
その方の今までの人生を尊重してお話を伺う。
そして「同じ目標を共有しているのだ」
という事実に気づいていただく。

「この子たちは、エサやりのあなたに慣れているらしい。あなたなら捕まえられます。避妊去勢に、ご協力願えませんか。これ以上不幸な子猫を増やすのは、もうやめにしませんか」

「優しいあなたが心を痛めた光景を、次の世代に残すのですか」


説得が難しい場合もありますが
その地域の不妊化を進めていく上で、
土地の猫事情に詳しい方は貴重な人材です。

対話の次元を一つ上げて、
友好的な関係を築きたいものです。