南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

高齢化と殺処分ゼロ

昨日、「老犬と杖」

というテーマで記事を書きました。

反響が大きく、驚いております。

 少し補足を入れさせていただきます。

 

ご高齢の方が動物を飼う、

という事に対し私は完全否定する訳ではありません。

確かに、加齢に伴って病気のリスクは上がります。

また、仮に自分が元気であっても、

配偶者が入院するかもしれません。

 

ただ、この問題は

「デジタルな価値判断で決めるべきではない」

と考えます。

 

例えば、70歳のご夫婦が

ゴールデンレトリバーの子犬を飼いたい」

と言ったらどうでしょう。

これは実際に相談があったケースなのです。

大型犬の寿命は12年、13年といったところです。

最後の数年は腰も弱り、寝たきりになる子もいます。

体重のせいで、寝る向きをかえてやるのも大変です。

そのとき80歳をこえるご夫婦に、

果たしてそれが可能でしょうか。

 

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こういったケースでは、

将来のリスクが高すぎるという意味で、

お考え直しいただくのが良いと考えます。

 

逆の例を挙げてみます。

70代の方が子猫を拾ってきました。

これはこの方が悪いのではなくて、

近所に捨てられていた子猫を助けたのであって、

悪いのは捨てた人という事になります。

 

健康に過ごせば、猫は20年近く生きます。

ですから、リスクの高いケースのように見えます。

ところがこの方は子猫にワクチンを接種させ、

去勢手術を受けさせ、猫エイズ等の検査をさせて、

十分に人慣れさせました。

その上で、譲渡会に出したのです。

 

そのとき、この子はもう子猫ではなくなっていました。

体格としては大人に近い大きさで、いわゆる

「一番かわいいとき」

を過ぎていました。

 

譲渡会で、もらい手がつくだろうか・・・。

しかし結局、60代のご夫婦にもらわれて行きました。

このご夫婦のおっしゃるには

「子猫はもらわれやすいでしょう。私たちは、ちょっと落ち着いた子がいいんです。猫は、いくつになってもかわいいものです。大事にしますよ」

 

この場合、

「高齢者は動物を飼うべきではない」

という理論を振りかざしていては

一向に話が前に進まなかったことになります。

 

実際、日本が超高齢化社会を迎えるのは

間違いありません。

我々はその社会構造の中で、

殺処分ゼロを実現していかねばならないのです。

 

一時預かりのお話もしておかねばなりません。

ボランティアさんには、限界があります。

 

命を救うために緊急的に保護したが、

正式な飼い主さんが決まるまでの間、

一時的に預かってくれる方はいないか‥‥

というご苦労があります。

 

子猫であれば

「ミルクボランティア」

というような言い方をします。

何時間かおきに飲ませないといけないので、

仕事のある方はほぼ不可能なのです。

リタイアされたシニアの方々は実に貴重な存在です。

 

そして、忘れてはならないのは

「自分以外に、飼う人が見つからなかった」

という理由で動物を引き取られたご高齢の方々です。

 

こういった方々がたくさんいらっしゃることを、

往診獣医である私はよく知っています。

その方々は謙虚さゆえに、

声高にそれを言うことはしません。

 

しかし、殺処分ゼロを本気で実現するならば、高齢者の力をお借りしないと立ち行かぬのではないか

と日々感じます。

 

何事も完全に否定するのではなく、

まずは問題の実態をよく調べるべきだろう、

というのが私の率直な意見です。

そのためには、数字だけを見るのではなく、

実際に町を歩かねばなりません。

 

讃えられるべき善意は謙虚さに隠れて、

町の片隅にひっそりと灯っているいるからです。

 

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