南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

「動物由来感染症」という言葉について

今日はちょっと用語を整理しておきたいと思います。

 

今思えば、このブログでは普通に

「動物由来感染症

という言葉を使っていました。

聞きなれない方もいらっしゃるでしょう。

ここでちゃんと説明させていただきます。

 

「動物由来感染症」とは、

「ヒトと脊椎動物の間を自然に伝播しうる、すべての病気又は感染症

 

のことを言います。

わかりやすく言えば

「ヒトと脊椎動物の両方にかかる病気」

だということです。

脊椎動物とはつまり、背骨のある生き物のことですね。

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では具体的にどんな病気が動物由来感染症かと言えば、有名なものとしては

狂犬病

結核

インフルエンザ、

日本脳炎などがあります。

先日お話ししたSFTSも入ります。

 

ただ、この「動物由来感染症」、

少しおかしな言葉でもあります。

なぜでしょう?

 

つまり、ヒトと脊椎動物の間で感染するなら、

「ヒトから脊椎動物」へも感染するわけです。

だから「動物由来」という言葉はおかしい、とも言えます。

動物から見れば「人由来感染症」ですからね。

 

そこで別の呼び方としては

「人畜共通感染症

というものもあります。

これなら人と動物が対等ですから、問題なさそうですね。

しかし、さにあらず。

「畜」の字を使うと、野生動物は感染しないのか、という話になってしまいます。

これでは誤解を招きますね。

 

そこで

人獣共通感染症

ならどうだということになりました。

しかしこれも、じゃあ鳥はどうなんだという話になってしまいます。

 

というようなわけで、結局今のところ

「動物由来感染症

が多く用いられています。

言葉を決めるのは人間ですので、人間目線の用語になるのは仕方ないことです。

 

では、英語では何というか。

ZOONOSIS (ズーノーシス)

と言います。

 

要するに

「動物由来感染症

=「人畜共通感染症

=「人獣共通感染症

=「ズーノーシス」

だと思って下さい。

 

最後に一つ、クイズを。

 

「今までに人類が根絶に成功した動物由来感染症はあるでしょうか」

 

答えは、ノーです。

 

人類はいまだ、動物由来感染症を根絶したことがありません。

 

ヒトだけの感染症に関して言えば、根絶に成功している例もあります。

天然痘です。

天然痘も人類にとって大きな脅威でしたが、1980年に根絶されました。

根絶に成功した要因の一つは、人だけが罹患する感染症だったことが挙げられます。

もし天然痘ウイルスが野生動物にも感染するなら、いまだ根絶されていないでしょう。

ひとたび広がった動物由来感染症を根絶することは極めて困難です。

 

ということで、「動物由来感染症」についてのお話でした。

 

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