南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

獣医学と獣医療

何がベストなのか。
何がベストであったのか。

往診するということは、移動中に思いを巡らせる時間が取れるということでもあります。

これから向かう現場のこと。
戻らない過去の症例のこと。

何度も考えるのは、
「獣医学的にはどうすべきか」
ということと、
「それは獣医療的には正しいことか」
という事です。

この二つは相反することがあります。

息せき切って駆けつけた現場。
蘇生に使う注射薬をあわてて取り出し、そっと往診カバンに戻すことがあります。
代わりに取り出すのは鎮静剤や鎮痛剤であり、投与した上で飼い主さんと最期の時を待ちます。

エピネフリンは打たなかったんですか、ジモルホラミンはどうしたんですか‥‥。
至極まっとうな意見です。
もし、教科書の通りに進めることが正解ならば。

このまま静かに逝かせてやって下さい、この子もこれ以上苦しむのはかわいそうだから‥‥。
その飼い主さんの前で
「いや、獣医学的には救命治療することになっています」
と言い切る権利が、果たして獣医師にあるでしょうか。

逆に、静かに死を選ぶ権利が動物の側にはあるような気もするのです。
もちろん苦痛が伴ってはいけませんから、安らかな最期に導くための方法は持ち合わせていますが‥‥。

動物の状態、飼い主さんのお気持ち。
往診カバンに手を伸ばすとき、自分に投げかける問い。

「教科書が、心まで癒せるか?」

葛藤の中で掴む薬の瓶は正しいのか。
何年やっても、いや経験が長くなればなるほど思いは尽きません。

ただ、飼い主さんとお話する時間は出来るだけ長く取りたいな、と思います。
その子の思い出も、一緒に分かち合うわけですから‥‥。