獣医学と落語 (3) 〜手遅れ医者〜
落語の小噺に「手遅れ医者」というお話が出てきます。
「先生大変や!若いのが屋根から落ちて、ウンウンうなってますねん!」
「‥‥これは、手遅れじゃな。もっと早く連れてくれば良かったものを」
「せやけど、落ちてすぐ連れてきたんだっせ」
「いいや手遅れじゃ。落ちる前に連れてくれば、まだ治しようもあったものを‥‥」
さて。
この話は小学生でも笑いどころのわかる、軽妙なお話です。
しかし、私はこの「手遅れ医者」の考え方に大変感銘を受けるのです。
なぜならこのお医者さんの言うことはいっけん理不尽な様ですが、実際はとても理にかなっていると思うからです。
なるほど確かに、落ちる前ならば医者の必要はありません。
しかし、それのどこがいけないのでしょう。
私の仕事は主に動物の病気を治すこと。
それによって人間の健康を守ることです。
しかし、そもそも病気がなければ治す必要はありません。
そして、その方がいいに決まっています。
感染症の予防に関する知識を飼い主さんにお伝えして回ること。
動物病院の無い自治体を走り、ワクチンを打って回ること。
つまり、
病原体より先に飼い主さんの元を訪れること。
病気になる前に、病気になりそうな芽をできるだけ摘んで帰ること。往診の基本はそこにあるような気がします。
次回、その具体的なお話をしましょう。
例として取り上げるのは、何がいいですかね。
ここは一つ‥‥、ヤモリでもなければタモリでもない、彼でいってみますか。