南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

獣医が深夜に出かけたら

八月の終わり、深夜2時。

バーの看板。
赤提灯。
スナックのあかり。

と、そこへ。
煌びやかな雰囲気をかき乱す、ただならぬ足音。
呼び込みのお兄さんが思わず振り返ると、男が一直線に駆けて来るではありませんか。
「そこまで酒に飢えているのか」
しかし男は風の如く店の前を駆け抜け、そのまま夜の闇に消えて行きました。

呆然と立ち尽くすお兄さん。
しかしこのとき彼は、一陣の風の中に
「リンゲル液、朝イチで往診車に積み込んどかんといかんな‥‥リンゲル、リンゲル」
というわけのわからない文句を聞いたような気もします。

ともかく、走る男はいくつも夜の街を越えていきます。

その男の目的がただ走ることにのみに集約されていることなど、誰も知ろうはずがないのです。


やがて男は、芝生の敷かれたグラウンドにやってきました。
ここで息を整えストレッチをしたら、今度は「跳ぶ」練習をするつもりなのです。

男には「跳ばねばならない」理由がありました。

来月、町の陸上大会で「走り幅跳び」にエントリーしているのです。

彼の子供たちは、もはや順位と言う概念を完全に理解し、父親が燦然たる成績を修めるであろうことを疑いません。

深夜2時のグラウンド。
男はピョンピョンと跳躍を繰り返します。
「40歳こえたらもう、体も上らんワイ」

さてその嘆息を。
誰もいないはずのグラウンドで耳にしたものがいました。

男の視界を、何か白いものが横切ったのです。



「何かが今、足元を‥‥???」



「猫??白い猫かな??」



「耳の長い猫‥‥‥???」



「ウサギやがな!!!」


まぎれもなくウサギです。
どこからか逃げて来たのか。
生まれつきの野良ウサギか。
ともかく、いつの間にか現れて男の周りを跳ね回っています。

ウサギは「なぜニンゲンがピョンピョン跳ねているのか」興味深そうに眺めたり、男が休憩する時はすぐ近くに来て横になったりします。

人が近くにいれば外敵に襲われない事を知っているようで、完全にリラックスしています。

再び男が跳躍を始めると、大喜びして周りをピョンピョン。
男も負けじとピョンピョン。

やがて息を切らしながら座った男は
「最高の練習パートナーや!」
握手を求めましたが、ウサギはずっと周りを跳びはねています。
もっとやろう、もっとやろうと。

帰り際、ウサギは名残惜しそうにグラウンドの出口まで付き添ってくれます。

また明日来るよ、男はそう言い残して帰途につきます。



日中、男は心の中でニヤリとします。
夜な夜な、ウサギと走り幅跳びの練習をしている獣医がいるなどどは誰も思うまいと。

そして、ふとこんなことも考えます。

もし表彰台の一番上に登るような事があったら、その時ウサギは付いて来てくれるだろうかと。



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