動物を飼うと健康に良い?
私の往診先にはもちろん動物がいるわけですが、そこには当然人間もいます。
ご高齢の飼い主さんも多く、私も
「この子のためにも、私がシャンとしてないと」というような言葉をよく伺います。
「動物を飼うことは健康に良い」
確かに、これはよく言われる通説の1つです。
本当にそうなのでしょうか。
この説の始まりは1980年に出た一本の研究報告です。
「心疾患に影響を与える社会的因子」
を明らかにするため、心疾患病棟にいた患者の退院後の動向を調査しました。
退院後の92人について、暮らす環境、仕事、心理状態などを一人一人聞き取ったのです。
調査開始から1年、92人のうち14人の方が亡くなっていました。
生存者と死亡者の背景に何か違いがあるだろうか‥‥‥。
解析しはじめたフリードマンはこのとき、驚くべき事実を発見します。
亡くなった14人のうち、11人がペットを飼っていなかったのです。
フリードマンはもう一度、データを確認しました。
全体の調査対象は92人。
そのうち、ペットを飼っていなかった人数を調べると、39人でした。
つまりペットを飼っていなかった39人のうち、11人が亡くなったことになります。
率にして約28%です。
一方、ペットを飼っていた53人のグループで亡くなっていたのは3人だけでした。
率にして約6%です。
つまり、この研究では
「ペットがいないと、心疾患の死亡率が数倍になる」
という結論が得られたわけです。
(出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1422527/pdf/pubhealthrep00128-0003.pdf )
ただ、反論もありました。
「ペットを飼育している人の多くは、犬を飼育しているのではないか。当然、散歩に出るだろう。動物うんぬんではなくて、運動が体に良いというだけのことではないのかね」
なるほど、言われてみれば。
ところがフリードマンが調べると、犬以外の動物、つまり猫・鳥類・魚など「散歩に連れて行かない動物」の飼育者もまた、何も飼育していない人より死亡率が低かったのです。
この報告がきっかけとなって、その後も数々の調査が行われ、たくさんの論文が世に出ています。
ともかく、議論の全体的な傾向としては、やはり
「動物を飼うことは健康に良い」
という結論を得ているようです。
しかし、人間を取り巻く社会環境は時代とともに変化します。
こういった調査は常に行われるべきだろうな、と思いますね。
それから、「長生きするために何でもいいから動物を連れてこよう」という短絡的な考えはやめましょう。
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