南の往診獣医さんのブログ

往診獣医が獣医師ならではの視点で動物のこと、社会の出来事、その他の話題についてオリジナルイラスト付きで書いています。

往診獣医の事件簿15 〜何かが匂う〜

 

夕方。

その日最後の往診も終わり、自宅に車を走らせる途中。

 

男性の声で、何とも恐ろしい電話が掛かってきました。

 

「部屋中、血だらけだ!血の下痢をしてる!」

 

ただごとではありません。

 

「血便ですか?」

「そう、すごい量だ‥‥!腸みたいなのも出てる」

「もうちょっと、詳しく‥‥」

 

どうやら、帰宅したら室内犬が血の混じった下痢をしていたとのこと。

しかも、今もお尻から腸のようなものが出たままになっているという‥‥。

 

夕方の渋滞を縫うようにして、何とか現場に到着します。

 

いやはや、すごいものです。

あたり一面血の海です。

 

画像は白黒に加工してありますが、飼い主さんが帰ってきたところ家中この状態です。

 

f:id:oushinjuui:20191117231912j:plain

 

さてこの場合、一番警戒すべきは犬パルボウイルス感染症です。

これは命取りの血様下痢を起こしますし、感染能力も凄まじい病気です。

 

しかしこの子は毎年、混合ワクチンを打っています。

それに室内犬で散歩にも行きたがらないというインドア派。

感染のリスクは低いはずだが‥‥。

ブツブツ呟く横で、飼い主さんも弱気に呻いています。

 

「腸も出てるようじゃ、命も危ないかね」

「いや、あれは腸じゃないですよ、粘膜と血が固まったものです」

 

いずれにせよ、この時点で私はまだパルボウイルスを疑っていました。

それで玄関から立ち入らず、距離を取って状況を見ていました。

 

しかし、このとき。

何か、何かがひっかかる。

 

そうだ‥‥さっき玄関のドアを開けたとき。

自分は何か、違和感を感じなかったか?

何か、何かが気になった‥‥。

 

血便に意識が上書きされる直前。

そこに感じた、わずかな違和感は何だったか‥‥。

 

玄関を閉め、もう一度、往診車に戻ります。

深呼吸し、また引き返して扉の前に立つ。

そして玄関のドアを開けると‥‥。

 

‥‥匂い。

この匂いは‥‥。

カレーだ!

 

わずかなカレーの匂い。

 

「この子、カレーを食べませんでした?」

「カレー?食べんよ」

「昨日はカレー?」

「昨日‥‥。晩はカレー」

「この子にあげたとか、残り物を舐めたとか」

「家族で全部食べきったはずだよ。それに、この子カレーなんか食べないよ」

 

奥さんに電話すると、昨晩のカレーはわずかに残ったとのこと。

少し残ったぶんをカレースープにして、お昼に食べたと。

しかしそのスープも残り、鍋に残したまま出かけてしまったと。

 

この点を確認してもらうと、やはり。

 

この子は、鍋に残ったカレースープを飲み干していました。

普段カレーを狙わないこの子も、コンソメ仕立てのカレースープには食指が動いたようです。

 

となると、犯人はこいつです。

 

f:id:oushinjuui:20191117232202j:plain

 

タマネギ。

 

タマネギに含まれる「アリルプロピルジスルフィド」という舌を噛みそうな成分が、恐らくこの子の赤血球を破壊しました。

 

念のためキットでパルボウイルスをチェックしましたが、やはり陰性です。

 

タマネギやネギ類が危険、というのはとりわけ珍しい情報ではないかも知れませんが、ついウッカリが危険を招く事があります。

 

ちなみにこの子はしばらく対症療法を続け、回復しました。

 

タマネギ‥‥、気をつけたいものです。

 

 

f:id:oushinjuui:20191119120350j:image

 

 

薄型ペットシーツ レギュラー800枚/ワイド400枚送料無料 ペット シート シーツ ペットシート ペット用 犬 猫 ペットシーツ トイレ 超薄型 1回使い捨て Pet館 ペット館 ※目隠し不可※


感想(39305件)